オフコン代替市場を席巻か

　次のマーケットを創出する──4月下旬、オービックビジネスコンサルタント（OBC）、日本ヒューレット・パッカード（日本HP）、マイクロソフトによる販売提携が成立したのは、各社が「64ビット版」製品で新市場を創出したいとする互いの思惑が一致したからだ。国内では現在、オフコンなどレガシー（旧式）システムのリプレース時期に差し掛かっている。このため、オフコンを多く抱える中堅企業の基幹システム商談の奪い合いが激化。そんな情勢の下で登場した3社の〝タッグ〟は、OBCと競合する業務ソフトウェア会社にとっては脅威だ。

　調査会社IDCジャパンによると、国内で稼動するオフコン台数は、国産メーカー製を中心に約5万台。その多くがリプレース時期にある。かつて日本アイ・ビー・エム（日本IBM）で「AS／400」の開発に携わった経験をもつ、ある技術者は、「オフコンを保有するユーザーの約7割は、年商10─500億円の中堅企業」と分析。その台数はおよそ3万5000台と見る。この領域は、中堅企業向け基幹システムを狙うメーカーや業務ソフト会社にとって、ここ数年内で〝収穫期〟を迎える最重要市場である。

　OBCの狙いは、「約1万台のリプレース」（大原泉・取締役販売推進部長）。これも、「3社連合」のシナジー効果への期待が大きいからだろう。昨年夏、新ERP（統合基幹業務システム）「奉行21VerⅡ新ERP・64ビット」の開発に着手していたOBC担当者は、100万円以下の64ビット版低価格サーバー「HPインテグリティ」の普及を進めていた日本HPを訪ねた。その目的は、HPの64ビット版サーバー上で64ビット版奉行21の負荷テストを頼むため。この時すでに、2社が販売協力で提携する話はまとまっていた。マイクロソフトは、同社のデータベース「SQLサーバー」を世界で最も販売しているといわれるOBCと日本HP連合に対して、当然のように技術協力を承諾した。

　日本HPは、全国約1000社の「ダイレクトリセラー」と呼ぶ販売ルートを持つ。02年は、このダイレクトリセラーの約6割がデル製品を販売したため、日本HPは惨敗。昨年は、日本HPが低価格戦略に力を入れたことでデルに「完全勝利した」（日本HP）。だが、いつ価格競争で逆転を許すかわからない。このためOBCからの協力依頼は願ってもない援軍の獲得だ。日本HPで64ビット・ウィンドウズのマーケティングを担当する田代俊介氏は、「中堅企業の下位層に当社製品を伸ばすのに苦慮していただけに、この層に浸透しているOBCと協業すれば、デルより優位に立てる」と話す。

　日本HPが中堅企業の上位層に強く、下位層の開拓に苦労。逆に、OBCは下位層でこそ32ビット版の奉行21シリーズを多数売るが、上位層に販売しようと開発した64ビット版のルート開拓に悩んでいた。「特に、ハードウェアベンダーとの関係が薄かった」（大原取締役）ことが原因だ。日本HPのダイレクトリセラーは流通・卸中心のディーラーで、OBCの販売パートナー約3000社はシステムインテグレータが主。2社が製品面で協力することで、パートナー同士の協業も加速し、ディーラー機能とシステムインテグレーションの融合が進むことも考えられる。この2社のチャネルに、マイクロソフトが過去2年間、国内の中堅・中小企業向けのIT化戦略を促進してきた「全国IT推進計画」で築いた地域ディーラー網がプラスされ、オフコンリプレース市場で強固な販売体制ができあがる。 谷畑良胤●取材／文