もっと情報モラルの教育を

　「インターネットを使わせるな」──。長崎県佐世保市の小学校で今月1日に起きた、6年生の女子児童が同級生をカッターナイフで殺害した事件の直後からこんな意見が相次いだ。加害者、被害者ともに趣味はインターネット。自らホームページを作成して公開できるほどの知識を持っていた。2人の間ではチャットや、ウェブ上でのコミュニケーションが毎日のように繰り返され、その中で書かれたいくつかの中傷的な内容が原因で犯行に至ったという。表面に浮かび上がった事実だけで、「インターネットの普及が引き起こした犯罪」との考えが、インターネットの利用を妨げようとしている。実際に、ある高等学校では事件後、生徒の保護者からインターネットを活用した授業を止めてほしいとの要望もあったという。問題はそれで解決できるのだろうか。

　文部科学省の山本有香・初等中等教育局参事官付情報教育係長は、「インターネット利用自体が問題なのではない」と真っ向から反論する。「正しく利用するための情報モラル教育を先生や保護者が徹底していないことこそ問題。情報モラル教育の必要性について、さらに訴えていかなければならない」と、インターネットに原因を求める風潮にクギを差す。確かに現状をみると、インターネットやパソコンの利用について、各学校や保護者の指導が進んでいたとは言い難い。小学校教員のなかには、「小学生は中学生・高校生と違って、インターネットの利用状況や知識レベルに差が大きすぎて、どこまで話して良いのか分からない。具体的な教育方法も定まっていないため、各教員が独自に判断しているのが現状」と説明しており、現場での対応に困惑している。

　暴力やアダルトなどの不適切サイトへのアクセスを制限するURLフィルタリングソフトを学校向けに提供するアルプスシステムインテグレーション（ALSI）の猪瀬森主・パッケージソリューション部マーケティンググループセキュリティプロダクトチーフは、「URLフィルタリングソフトを導入する学校は、すでに全体の約90％以上に達している」と、ある程度の対策はできていると語る。しかし、「どのサイトへのアクセスを禁止するかといった設定は、メーカー側に任せっきり」と話しており、教員側の情報モラル教育が徹底されているかどうかが疑問という。

　家庭では、子供のインターネット利用をどう見ているのだろうか。セキュリティソフト大手のシマンテックが今年5月に、18歳以下の子供を持つ保護者361人に対して情報セキュリティの実態調査を行った。それによると、子供のインターネットアクセスについて「アダルトや暴力サイトへのアクセス制限策を行っているか」との問いに、保護者の約40％が「何もしていない」と回答。子供のインターネット利用状況を把握していない保護者が多い実態が浮き彫りになった。

　文部科学省では2000年以降、情報モラルのあり方についての冊子を作成・配布したり、ウェブサイト上で公開するなどの施策を行ってきた。しかし、佐世保市の事件はその対策が十分ではなかったことを裏付ける結果になった。6月4日、このような事件を2度と引き起こさないために文部科学省は、各課の課長クラスが集まりプロジェクトチームを設置した。情報社会の中でのモラルやマナーについての指導方法などについて論議が始まっている。「危ないから使わせない」という安易な考えは問題の解決にはならず、時代に逆行するような議論だけは避けたい。　木村剛士●取材／文