弥生とソリマチの牙城を切り崩す

　パソコン量販店に並ぶ10万円前後の会計ソフトウェア市場はここ数年、弥生とソリマチの2社の寡占状態が続いていた。この市場に7月下旬、2社の先行に待ったを掛けるべく、日本デジタル研究所（JDL）が会計ソフトの新製品を店頭で初めて投入する。かつて、この領域では、オービックビジネスコンサルタント（OBC）やピーシーエー（PCA）がシェア上位を争っていた。しかし、両社とも「高額ソフトは店頭販売に不向き」と、販売チャネルの重点を訪販系にシフト。これらを背景に業務ソフト業界は、「お手並み拝見」とばかりにJDLの新製品がどこまで販売本数を伸ばすか静観している。

　JDLが新たに投入する会計ソフトは「JDL IBEX会計」。定価13万4400円だが、店頭では10万円弱で登場しそうだ。会計専用機メーカーのJDLは、「会計事務所で培ったノウハウを基に、一般の企業会計向けに集大成した当社の主力商品」（森崎利直・取締役マーケティング本部長兼広報担当部長）として、量販店で月400本の販売を狙う。従来からの会計事務所の「ビジネスパートナー」経由では月600本としており、量販店経由の比重は小さくない。この会計ソフトと店頭で競合するのは、弥生の「弥生会計04プロフェッショナル」やソリマチの「会計王5プロ」。いずれも店頭価格は6万円前後でJDL製に比べて3万円以上安い。この価格差がどう出るか。

　「JDL IBEX会計」の価格が他に比べ高いのは、ハードディスク（HDD）への自動バックアップや最大1ギガバイトまで5日間継続保管するなど、他の会計ソフトにない機能が搭載されているため。しかも、資産管理や消費税関連で出力できる帳票数が弥生会計04プロフェッショナルと会計王5プロに比べ3倍以上と多い。この機能差について弥生は、「企業の会計担当者向けというより、企業の会計を集計する会計事務所に都合のよいソフトだ」（相馬一徳・執行役員営業本部担当）と見る。そのため、「弥生会計04プロフェッショナルとは市場が違う」（同）と、JDLが弥生を競合相手と見るのに対し、弥生は「競合しない」というスタンスだ。

　弥生の相馬執行役員は、「むしろ、OBCやPCA、応研などの会計ソフトがぶつかる」と、十数万円するOBCの「勘定奉行2シリーズ」やPCAの「じまんシリーズ」などが「JDL IBEX会計」の競合製品になると見る。

　だが、OBCやPCAは3年ほど前から、販売チャネルの重点をコピー機メーカーなど訪販系に順次移し、「全販売本数の8割以上は、訪販系チャネルで稼ぐ」（PCAの折登泰樹・常務取締役営業本部長）と、すでに店頭販売から距離を置いている。

　JDLは2002年6月、初心者向け経理ソフト「JDL IBEX出納帳」を発売。昨年度（04年3月期）、この経理ソフトの売り上げは前年度比約2倍の7億5000万円に達した。今年4月1日には、この経理ソフトの機能限定版である無料ソフト「出納帳3カジュアル」の提供を始め、6月までに予想を超える8万本を配布。業務ソフト業界は、「なぜJDLのソフトだけがこんなに好調なのか」と疑問を深めている。

　JDLは、他社に比べ特別変わった店頭支援をしているわけでなく、年間約20億円という広告・宣伝費のプロモーション効果が頼みの綱。「JDL IBEX会計」の店頭販売にも広告・宣伝がモノを言う。月販400本という目標で勢づいている分、割りを食う業務ソフト会社は出てくる。　谷畑良胤●取材／文