開発子会社、販売の前線基地に

　中国の内需拡大が続くなか、ソフトウェアベンダー各社が中国に設けている開発子会社の在り方を見直す動きを加速させている。ソフトベンダーにとって、これまでの中国のソフト開発子会社は、安い人件費によるコスト削減が主な目的だった。だが、中国に進出する外資系企業や中国国内企業のIT投資の拡大を受け、受託ソフト開発だけではなく、新たに販売機能を持たせるなどプロフィットセンター化が急ピッチで進んでいる。

　営業支援システム「eセールスマネージャー」などを開発するソフトブレーン（宋文洲会長）は、開発子会社、軟脳軟件（北京）（宋文洲・総経理）の販売機能の強化に踏み出した。日本国内でおよそ600社への導入実績がある主力商材のeセールスマネージャーを、中国市場へ本格的に売り込む前線基地として機能させる方針だ。しかし、これまで受託ソフト開発中心だったソフト子会社がいきなり営業活動を始めるのは、営業ノウハウの不足から困難が伴う。軟脳軟件（北京）でも、当初は本社で作成した仕様書に基づいて開発するだけの〝下流行程〟の作業が中心だった。

　だが、ここ数年で人材育成に努め、「昨年後半から設計から開発までを一貫して受け持つ体制をつくった」（軟脳軟件（北京）の初宏偉・副総経理）と、製品知識や業務ノウハウを身に付け、顧客企業への提案営業ができるようになった。

　自分が何を開発しているのか分からずに開発する場合と、製品の目的や用途、利用者の使い勝手などが見渡せる立場で開発する場合では、自ずと仕事に対する姿勢も変わってくる。主力製品のノウハウを開発子会社にも持たせることで、販売能力を高める基盤をつくった。

　ソリューションプロバイダのソラン（千年正樹社長）は、グループの経営戦略の一環として中国拠点の活用に重点を置き、ソフト開発子会社の北京索浪計算機（北京ソラン、百瀬龍雄社長）への発注量を増やしている。これは、「これまでの受託ソフト開発に加え、中国市場への進出拠点としての足場を固めるため」（北京ソランの百瀬社長）。今後はソラングループの中国における前線基地と位置付け、中国市場に向けた提案型のビジネスを拡大する準備を進める。

　業務アプリケーション分野だけでなく、携帯電話などの組み込みソフト需要も旺盛だ。携帯電話ユーザーはすでに2億人を突破しており、今も増え続けている。組み込みソフトに強い富士通ビー・エス・シー（富士通BSC、兼子孝夫社長）は、子会社の北京思元軟件（鐘錫昌董事長）と共同で、中国のハードメーカーに対する営業を強化している。

　中国は人口が多いため、「携帯電話などの組み込みソフト市場は、業務アプリケーションと同様の高い成長率が見込まれる」（北京思元軟件の肖暁凌・副総経理）と、急拡大する中国の組み込みソフト市場の開拓に意欲を示す。すでに中国の携帯電話メーカーなどから引き合いが来ており、操作画面の設計から半導体の選定、実際のソフト開発に至る「上流行程から下流行程まで一貫した受注」（同）に自信を示す。

　中国を人件費が安価なソフト開発拠点と位置付ける考え方に、大きな変化が起こりつつある。これまでのソフト開発を通じて培った人材をフル活用し、プロフィットセンター化が急ピッチで進んでいる。拡大する中国市場におけるIT投資を先取りし、先行者利益を最大化するために、中国開発拠点の戦略的活用が欠かせないフェーズへと突入した。　安藤章司●取材／文