IT企業にも信用収縮の懸念

　三菱東京フィナンシャル・グループ（MTFG）とUFJグループの経営統合の激震が、関西を襲っている。多様な中小企業で形成される関西経済を「産業の血」である金融で支えていた関西系の大手行は、またも金融再々編の渦中に飲み込まれた。UFJが担ってきた信用創造はどうなるのか、中小企業の懸念は高まる。財務基盤が脆弱な所も多いIT産業には、深刻な影響も予想される。5月下旬、関西経済連合会では「もはや関経連だけの問題ではない」との悲痛な声が聞かれた。11人の副会長には、関西系大手企業のトップが就任するのが通例。金融代表は旧・三和銀行以来の指定席だったが、頭取の引責辞任や金融庁の業務改善命令で後任を送り込める状態ではなくなっていた。三井住友銀行は東京に軸足を移し、りそな銀行は実質国有化された。金融代表の不在は、関西経済そのものの空洞化を示すことになる。

　一方、大阪商工会議所の野村明雄会頭（大阪ガス会長）は、経営統合発表後すぐにコメントを出した。UFJ銀行は、中小企業や地域経済活性化になくてはならぬ存在。今後とも関西発展のパートナーであり続けてほしい、としたうえで「不良債権処理を急いで、本来再生する力のある中小企業を切り捨てることのないようお願いしたい」との一文を加えた。銀行合併で、融資枠縮小や債権売却される例は過去にもあり、結果として中小企業の倒産が増えたのも事実。統合がUFJ救済である以上、関西の中小企業にデメリットがもたらされる公算が強い。経営統合で、総資産約190兆円の世界最大の金融機関が誕生する。地域基盤や取引先企業など、新銀行には相互補完効果がもたらされる。大手企業の場合、メーンバンクが健全・強固に、高度な総合サービスを提供できる体制になることに不満はない。MTFG関係者も「トヨタ自動車や活気のあるシャープ、京セラとの接点が増えることは大きい」という。

　その半面、中堅・中小企業に対しては厳しい眼を向ける。「はっきり言って、主導権はMTFGにある。今回の統合は、今後3年以内にグローバルトップ10を目指すという中期戦略の一環として、中小企業取引拡大のための『時間』を買ったという側面も否定しない。しかし、中小企業取引の審査基準は、我々のスタイルに合わせてもらう」（MTFG関係者）と言い切る。東京三菱銀行は、メガバンクの中でも最も審査が厳格で知られる。UFJ銀行の審査が甘かったわけではないだろうが、これまで2000万円の融資枠があった中小企業が、新銀行では1000万円になることはあり得る。東京三菱でもこの1年、関西での新規取引の開拓を進めており、従来、年商20億円程度の企業をターゲットとしていたものが、将来性のある企業なら5億円程度でも取引を開始している。「IPO（株式公開）を目指す企業などには、従来のUFJ銀行以上のサービスを提供する」（MTFG関係者）が、現状に満足する企業なら新銀行の顧客たりえないということだ。

　在阪で、UFJ銀行がメーンバンクのIT企業経営者は「UFJですら痒いところに手が届くわけではなかったが、巨大化した新銀行ではなお離れてしまう。中小企業には厳しい対応を迫るものと予想し、対処の決意を固めている」という。ソフト会社経営者も「直接の心配はないが、取引先への影響が気になる。銀行による顧客の再選別は覚悟しなければならない」と漏らす。漸くトンネルを脱したかに思えた関西経済だが、行く手には険しい坂道が待ち構えているようだ。　川井直樹（本紙副編集長）●取材／文