「高い、難しい」の払拭に死力

　「価格が高い、製品も難しい」。オラクル製品は、これまでユーザーからの、こうした「負のイメージ」を与えられてきた。日本オラクルは1年前からこれまで実施してこなかった、同社がSME市場と呼ぶ中堅・中小市場の企業やパートナーに直接訪問する営業を開始した。この直接訪問で初めて、「高い、難しい」というイメージが「予想以上にSME市場に蔓延していた」ことに気づいたという。かつて企業のデータベース（DB）導入が活発化した際に、オラクルDBはSME市場のDB販売でも確実にシェアを伸ばしていた。だがその後、オラクルDBの「高い、難しい」のイメージが足かせとなり、マイクロソフトのDB「SQLサーバー」に多くが置き換わり、いつしかSME市場でのポジションを失っていった。

　9月18日、新たなSME市場戦略を説明する記者向けセミナーで、同戦略を仕切る三澤智光・執行役員クロスインダストリー統括本部長は冒頭、「高飛車な体質を改める」と、パートナー任せの姿勢を改め、SME市場でもこれまでより積極的に現場へ担当者が出向くことを強調した。暗に従来の戦略ミスを認め、ここが新たな出発であることを宣言したわけだ。

　実は、1年前に発表したオラクルDB「10g」シリーズでは、「スタンダード・エディション・ワン」を出し、価格をSQLサーバーより5ユーザー仕様で3分の1に設定。開発効率や拡張の容易さも格段に向上させた上に、開発ライセンスも年間定額制で格安にした。ところが、「SME市場では、販売を100％パートナーに任せていた。だが、パートナーの1次店、2次店となる販売会社は、2000年のオラクルDBv8の頃のイメージをそのまま持ち続けていた」（遠藤哲・クロスインダストリー統括本部営業推進部兼ISV推進部部長）と、悪いイメージの根強さに驚いたという。このため、今でも販売会社がv8より「安くて、簡単」なSQLサーバーやフリーウェアを企業に勧めているという実態がある。

　日本オラクルはSMEを「年商3000億円以下」と定義する。同社によると、このうち約4000社ある300─3000億円の領域は約60％がオラクル製品を利用していた。しかし約16万社ある300億円未満の領域になると、導入率は15％まで落ちる。オラクルユーザーではない企業群を、同社では「ホワイトマーケット」と呼び、積極的なアプローチを開始した。その第1は、ターゲット企業に顔を出す機会を増やすことだ。300─3000億円領域には、同統括本部の専任営業部隊20人が1人年間150社へアプローチする。「今年度内に、ほとんどを網羅できる」（三澤統括本部長）計算。現場訪問では、「安い、早い、簡単」をアピール。システム構築を受注すれば、パートナーに案件を渡して技術支援も行う算段。「1回顔を出せば、企業は当社へのコンタクトを増やす」（同）ことを目論んだ。実際に、同社の中堅向けERP（統合基幹業務システム）「オラクル・ネオ」は、昨年度販売した半数が、この現場訪問をきっかけに受注するなど効果を上げている。

　昨年12月にはパートナー加盟の敷居も低くした。「再販権がないベンダーも加盟できるようにし、支援も均一にした」（遠藤部長）ことで、300社から700社にパートナーが増加。SME市場向け担当も1年前の約3倍、160人と日本オラクル全社員の10分の1まで増えた。ISV（独立系ソフトウェアベンダー）との共同開発も進む。日本オラクルは、SME市場の開拓に本気になっている。(谷畑良胤●取材／文)