財政難が進化を阻む

　2005年度までに最先端のIT国家を建設する──。この達成のためには、全国の市町村レベルまで均質な自治体IT化を進めなければならない。しかし、現実を見ると、進捗がまちまちなのは仕方ないとしても、極度の財政難でまったく進んでいない、または過去に補助金で構築した先進的なシステムの維持もできなくなっている、というケースもある。先日、福島県葛尾村の取り組みを聞いた。葛尾村では、97年度に政府の自治体ネットワーク施設整備事業と福島県自治体ネットワーク施設整備支援事業を活用して、テレビ電話による高度情報通信ネットワークを活用した村づくり事業「マルチメディアビレッジ事業」を立ち上げた。

　マルチメディアセンターの整備や映像ライブラリー装置、多地点同時接続装置、双方向画像伝送装置の導入など総事業費は7500万円。村内470戸には、NTT東日本の協力でテレビ電話機を無償貸与するなど、過疎の村を一気に情報最先端の村にする事業だ。テレビ電話を使った在宅健康相談や診察といった医療分野やテレビ会議など用途はいろいろ。その現状を取材しようと思い電話した。

　葛尾村の答えは、「全世帯を対象にテレビ電話を入れたが、現在使用しているのは半分程度。有料サービスでも使いたいという村民だけが使っている」（葛尾村総務課）という状況だった。ITU（国際電気通信連合）の英語版ホームページでも紹介されていたというこのマルチメディアビレッジ事業だが、残念ながら使命を終えつつあるようだ。こうなった原因の1つは、「通信回線に毎秒64キロビットのISDN（総合デジタル回線網）を使っているが、今ではもっと速い回線サービスがある」ため。技術にキャッチアップしていくための投資を財政状況が許さなかった。

　こうした例は何も葛尾村だけではない。実証実験に手を上げ補助金で構築した電子行政システムが、実証実験の終わりとともに消えていくケースは多い。どれも、サーバーをはじめとしてシステムの運用経費を賄うのに十分な財政状況ではないという理由だ。今年は台風の当たり年。雨や風による被害も大きかった。新潟県中之島町は、7月の集中豪雨で町役場の1階が冠水する被害を受けた。サーバーは2階にあったため難を逃れたが、通信系の設備が使用不能になった。町役場総務課に問い合わせると、「水害の復旧に忙しい。システムの復旧とかの前に道路の復旧などすべきことがたくさんある」と、インフラとしてのITの優先順位は低い。

　昨年9月26日に発生した「十勝沖地震」で被害を受けた北海道池田町は、GIS（地理情報システム）を完備していたことで、隣接する町村に比べ、いち早く水道の復旧を果たした。秋田県矢島町は、町内全戸に光ファイバーを引き込んでいるという。しかし、ITを積極的に活用し効果をあげている自治体は、町村レベルでは少ないのが現実だろう。遠隔医療などをはじめとして、島しょや山間地の過疎地でのIT需要は少なくないはず。ITベンダーの多くも需要はあると見る。しかし、住民の高齢化や過疎化、何より自治体の財政難がそうした需要に応えることを阻んでいる。行政のIT化は、24時間365日どこにいても同じようにサービスが受けられるようにすることが目的だ。テレビの難視聴や携帯電話の不感地帯など過疎化を煽る要素の1つになっているが、IT化の進捗も同じようなファクターにならないとは言えない。(川井直樹（本紙副編集長）●取材／文)