かつて無数に生まれて来たにもかかわらず、その多くが既に業務を停止しているものに、米国のBtoBサイトがある。企業間取引を活発にし、IT業界を発展させると見られていたBtoBサイトだが、その期待とは裏腹に、その大半が消え去ってしまった。そして現在注目を集めているのは業界団体のNPO（民間非営利活動）法人化だ。なぜNPO化に期待が持たれているのだろうか。

　米国でのNPOの積極的な活動は良く知られるところだが、IT分野の場合は特にその傾向が顕著だ。米西海岸のシリコンバレーや米国東部のシリコンアレーでのNPOの活動は、それなくしてはその地域の発展もなかったといっても過言ではない。この2地域以外でも多くの地域でIT関連のNPOが業務を継続中であり、企業と行政、そして消費者との連携を高め、業界の発展を目指している。

　しかしシリコンアレーでは、この地区の代表的なNPOであったニューヨーク・ニューメディア・アソシエーション（NYNMA）が破綻した。NYNMAはシリコンアレーの発展に多大な貢献をしたNPO組織だ。事業停止の最大の要因は、深刻な資金不足。資金源だった寄付や献金は、ITベンチャーの起業が盛んだった2000年頃をピークに急速に減少。IT不況や01年の同時多発テロ事件により、シリコンアレー地区から資金提供元の企業そのものが消え去った。

　NYNMAはその事業の一部をニューヨーク・ソフトウェア協会（NYSIA）など他のNPOに移管し、03年12月をもって完全に事業を停止している。

　NYSIAは、ニューヨークのソフトウェア産業やIT関連企業600社以上が加盟する業界団体だ。NYSIA自体は積極的な活動を継続中だが、600社の中には当然競合関係にある企業も多数ある。NYSIAのブルース・バーンスタインCEOによれば、NPO組織としての方針決定や日々の運営には細心の注意が必要だという。実際にマイクロソフトが00年3月にNYSIAの上位団体であるソフトウェア＆情報産業協会（SIIA）からの脱退を正式に表明するなど、自社の利益を優先する姿勢を隠さないところも目立つ。だがバーンスタインCEOは業界団体のNPO化は今後は主流になると考えているようだ。

　同氏によれば、IT分野におけるNPOの役割は一般のNPOのそれとは若干違いがあり、消費者の利益を直接追求するだけでは、NPO組織としての存在意義を満たすことはできないのだという。

「教育や福祉の分野におけるNPOは、その業務や役割が明確で、活動の結果が直接市民に還元される。しかしIT分野は製品や技術が多様で、その利用方法や応用は使用者によって大きく異なる。更に新たな技術やその用途が日々創出されている現在では、企業や業界そのものが自己の指針となる必要があり、そのために業界団体は公正明大かつ目先の利益に捕らわれない中立の立場を維持しなければならない。その目的を達成するには、NPOという組織形態がいろいろな面で望ましい」と同CEOは述べる。

　更には、かつて数多く出現した各業界のBtoBサイトの多くが、当初の期待ほどには成功しなかった事実を例に挙げ、これまでのような利益追求のみの方針は結果として業界そのものを圧迫し、企業自身への不利益も大きくなるばかりであると力説する。

　NPO化のメリットはそれだけではない。一般市民の代表たる通常のNPO組織では、常に資金不足に悩まされ続ける。しかし同様の目的をもった同一業種の企業の集合体であれば、加盟企業からの寄付や献金も集めやすい。同様に政府や官公庁との交渉も容易となるなど、そのメリットは多岐に渡る。実際にNYSIAでは、企業間取引を促進するBtoB的な業務や、政府期間に働きかけを行う活動にも注力している。

　現在、NPOでの雇用は全雇用の18％以上と重要な地位を占め、従業員側からもキャリアアップの為に組織運営の経験を積む場所としても注目されている。その成り立ちから経営資源に窮することも少なく、業界や企業、行政や官公庁、そして消費者と言う立場の違うそれぞれに対して利益を生むことが可能な業界団体のNPO化は、特にIT分野に置いては今後も活発になっていくものと見られている。（田中秀憲）