効果少ないIT産業振興策

　ソフト開発案件の首都圏集中が言われるようになって久しい。地方のシステムインテグレータを取材した際にも、その会社の幹部が「Uターン希望者の採用で、東京の大手ITベンダー出身の転職希望者を採用した。条件でようやく折り合って採用できたが、参加させたプロジェクトの都合で、東京へ単身赴任してもらうしかなかった」と申し訳なさそうに語っていたのが印象的だった。地元に帰るつもりで転職したのに、仕事場は東京のまま、というわけだ。

　地方のシステムインテグレータのなかには、営業セクションの実質的な本部機能を東京に移している企業も少なくない。それだけではなく、開発部門の主力は東京にあり、本社の開発部門は支社並みの人員と売り上げ、という企業すらある。地方のシステムインテグレータはますます活力を失っていく。

　地方自治体は「これからも成長を続けるのはIT企業だ」とばかりに地元IT企業の振興に力を入れている。かつて、大メーカーの工場を誘致するために造成された工業団地は、全国各地でたんなる〝空地〟と化している。設備投資の圧縮や生産の海外移転による拠点の撤退もあり周辺産業衰退も含めて地元経済に大打撃を与えている。その挽回策として期待されているのが、ITとバイオだ。ただしバイオの場合、ある自治体の産業振興担当者は、「環境汚染などの懸念もあり、住民の受けがよくない。その点ソフト産業ならば成長性から言っても申し分ない」と語る。

　その結果、全国各地に「ソフトパーク」のような施設が多く作られ今でも誘致活動とともに地元ITベンチャー振興が盛んだ。地元のIT企業のトップは、「地元に受け入れる企業がなければ地元大学の出身者が大都市に流れる。技術も人材も残らない」と人材の受け皿と地方経済活性化の効果を期待する。しかし実際には地方のIT企業が「食べていく」だけの案件は少なく、地方のシステムインテグレータの多くが首都圏のプロジェクトを受託し、人材を派遣している。数々のソフトパークも、フルに稼動しているところは少ない。

　東北のある都市では、市が中心となって設立したソフト企業を誘致するための施設は、閑古鳥が鳴く状態で市役所の会議室に使われたり、市役所の組織が入っていたりする。「空家にしておくわけにもいかないので」と担当者は語るが、その施設に入居しているソフト関連の企業は少ない。

　その一方で、岐阜県などのように大々的にIT企業を誘致し、地元のITベンチャーを育てるための施設「ソフトピアジャパン」を運営する自治体もある。そこに入居しているマイクロソフトが、岐阜県、ソフトピアジャパンと組んでベンチャー支援を行っている。こうしたケースは全国的に見ればまれである。和歌山県白浜町は、空家となっている大企業が所有していた保養所、リゾートマンションをリゾートオフィスとしてIT企業誘致に使っている。

　それでもニーズは首都圏を中心として発生しており、結局は東京を向いて仕事をしなければならないのが実情だ。地方自治体のIT化や地方の産業振興などニーズの「種」はありそうだが、地元IT企業を潤すまでは成熟していない。地方交付税の減少や補助金の削減など、地方経済が活性化しなければ人や金の面で、地方自治も危うくなる。「地方の時代」という言葉は、ソフト産業についていえば、全く遠い話なのである。(川井直樹（本紙副編集長）●取材／文)