21世紀の新興国群「BRICs（ブリクス＝ブラジル、ロシア、インド、中国）」の中でも先頭を走る中国とインドは、お互いにIT立国を目指すライバル同士と見られる。だが、実際はIT分野で両国の協調関係は深まっている。中国はインドの高いソフト技術力を吸収、IT産業の高度化を図り、一方、インドにとっても中国は巨大市場となっている。

　ここ数年、中国のソフトウェアパークで、いわゆる“インド系”の人を見かけることが増えている。

　インドはソフト輸出額が120億ドルを超えるIT大国。世界で最多のコンピュータ科学卒業生を毎年輩出し、英語を母国語とする強みを生かして世界各国に向け、オフショア開発や人材派遣を手がける。

　それは、中国が目指すIT大国の姿でもある。優遇税制やハイテクパーク整備などの支援により、2005年までにソフト輸出額を50億ドルに引き上げる計画である。インドとは強いライバル関係にあると見られる。

　だが、中国とインドの協調関係は逆に深まっている。中国・インドの貿易額は04年、前年比で90％以上増え、100億ドルを突破する勢いだが、けん引役はIT分野での交わりだ。

　例えば、大手通信機器ベンダーの華為技術（ファウェイ・テクノロジーズ）は、数年前からインド人技術者の採用を積極的に進め、インド・バンガロールに第3世代移動体通信や光ファイバー通信など先端製品の研究開発拠点を設ける。8月には1億ドルの追加投資を表明、05年末までに拠点人員を2500人へ拡充する。

　今や通信機器（ハード）も、ソフト技術によって性能や品質が決まる。ファウェイは特許申請件数が中国企業としてトップになるなど、中国IT産業の“星”と言える企業だが、その背後でインド人技術者が活躍する。

　中国のあるソフト開発会社幹部は、「客観的に見て、インドのソフト技術力は中国の数段上。インドから吸収できる部分は大きい」と認める。

　膨大なIT需要が発生している中国は、ソフト技術で優るインド企業にとり、巨大市場となる。実際、インフォシスやサティヤムなどインドの大手ソフト会社が進出し、中国人技術者を採用して事業を展開する。欧米の顧客を相手に蓄積してきた高度なシステム開発ノウハウを強みにして、金融業などに食い込む。

　逆に言えば、中国は市場を開放することでインド企業を呼び込み、直接投資と高度なノウハウを自国のソフト産業へ吸収させているといえる。また、強いハードベンダーが不在のインドは、中国にとって大きな市場になる。ファウェイをはじめとする中国企業が、通信機器やパソコンなどのIT機器で輸出攻勢をかける。これも両国間の貿易を活性化させている。

　それぞれが不得意とするソフトとハードを補い合う中国とインド。究極的にはライバル同士ながら、利用できるところは利用するという発展途上国らしい“したたかさ”がある。（ジャーナリスト坂口正憲）