著作権保護と利便性の共存を

　音楽CDの違法コピーを防ぐため、レコード会社各社が2002年から導入を始めたコピーコントロールCD（CCCD）を、今になって廃止する動きが広がっている。

　エイベックスや、ソニー・ミュージックエンタテインメントなど大手レーベルを中心に、続々と採用をやめるレコード会社が増えた。「著作権保護に対する一定の理解がユーザーに定着した」というのが、廃止を決めたレコード会社の主張。オンラインによる音楽配信事業を手がけるレーベルゲートの長嶺徹・プロモーション・チーム係長も、「（著作権に対する）利用者の意識は変化してきた。CCCDの導入は、決して無駄ではなかった」と、成果を上げることができたことを強調している。

　だが、それを額面通り受け取れない、違法コピーに対する意識が高まっているとは言い難い事実も浮き彫りになっている。

　日本レコード協会（RIAJ）の調べによると、音楽CDのCD─Rへのコピーは、年間で約2億4000万枚にもおよび、その数は決して減っていないという。また、コンピュータソフトウェア著作権協会（ACCS）の調査レポート「2003年版ファイル交換ソフト利用実態調査結果」によれば「WinMX」に代表されるファイル交換ソフトの利用者も年々増加しており、180万人を突破したとしている。ACCSの調査レポートは続けて、「交換されるデータの大半は音楽ファイルで、全体の80％以上を占めている」と。この結果を見て、「著作権保護の認識が定着した」と言えるのだろうか。

　CCCD廃止の理由として一番もっともらしいのは、「携帯オーディオプレイヤーの好調さを受けて、CCCDを撤廃しないわけにはいかなかった」というもの。「著作権保護の意識向上」が理由ではない、というわけだ。

　携帯オーディオプレイヤーに楽曲を取り込めないCCCDの〝扱いにくさ〟に対する不満が顕在化し、音楽業界を動かしたという見方だ。

音楽CDおよびテープの販売は、1997年をピークに減少が止まらず、販売金額では97年に比べ約2000億円低い3996億円まで市場は縮小。不況に喘ぐレコード会社各社が、この不満の声を無視できなかった、というわけだ。実際、携帯オーディオプレイヤーを開発・販売するクリエイティブメディアには、「ユーザーからCCCDの楽曲を取り込めないという問い合わせがある」と、CCCDに対する認識不足と〝コピー〟できない不満が寄せられている。

　ACCSの坂田俊介・事業部リーダー国際業務兼広報担当は、「CCCDの仕組みはユーザーの利便性をあまりにも損ないすぎたのではないか」と指摘しており、著作権保護の重要性を主張する一方で、その扱いにくさには同感し、新たな技術的対策の必要性を強調している。

　携帯オーディオプレイヤーに取り込めるようにすれば、パソコン上での不正コピーは生まれ、逆に著作権保護を考慮すれば、利便性を失わせる──。

　著作権保護と利便性の共存が難しい面は確かにある。だが、CCCD廃止後の各レコード会社の著作権保護対策が見えてこないのも事実。

　ある音楽配信事業者は、「レコード会社、メーカー、各業界がこれらの課題についてそれぞれ独自に、バラバラで進めているのが現状。著作権保護と利便性を高める方策を業界に関係なく進める枠組みも必要」と話す。

　CCCDの廃止が、多くの課題を解決するための新たな進化を生むきっかけになれば良いが、再び混沌を生む可能性もないわけではない。(木村剛士●取材／文)