ウィンドウズかLinuxか──。反オープンソース運動「Get the Facts（事実をつかめ）」を進めるマイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOが、キャンペーン開始1周年に当たる10月下旬、ウィンドウズの優位を訴える長文メールを顧客に流し、Linux陣営から激しい反発を招いている。

　問題のメッセージは、バルマーCEOが業界アナリスト各社の調査結果を山ほど引用して仕上げた全2602ワードの大作だ。TCO（総所有コスト）など経済面、安全面、そして知的保有権に対する損害賠償の面でもウィンドウズがLinuxより優れたOSであることの論証を試み、「Linuxは“村のお遊び”に過ぎない」と一刀のもとに斬り捨てた。

　「村のお遊び」と笑われたのではLinux陣営も黙っているわけにはいかない。豪州のオープンソース業界団体代表はさっそく「スティーブはLinuxをはじめオープンソースを過小評価している。村のお遊びとは論外だ」と遺憾の意を表明。

　昨年独SuSE（スーゼ）などを買収してLinux業界に参入した主要ベンダーのノベルは、翌週のうちに自社サイトに反論ページ「真実の歪曲を正す」を公開し、「マイクロソフトがしているのは都合の良い部分のつまみ食い。不完全な議論で市場にFUD（恐怖、不安、疑念）を拡散しようとしている」（広報担当者）と反撃。

　同社のジャック・メスマンCEOも顧客宛てメールで「（マイクロソフトが用いた）ヤンキーグループのTCO比較調査では、Linuxのことも“優れた性能と信頼性を備え使い易くセキュア”としている」、「マイクロソフトの言うことが本当なら、Linuxは世界最速のスピード成長を続けるOSではないことになるじゃないか」などと切り返した。

　泥かけ試合に巻き込まれた調査会社では、ヤンキーグループのレポート作成者が「レポートは全文読まないと誤解を引き起こしてしまいがち。ノベルは自社の目的のためにこれを利用しようとしている」とひとまず不毛な揚げ足の取り合いを牽制したうえで、「ユーザーの環境がどんなものかによっては、どちらのOSも弁護は可能ですよ」と両方の顔を立てた。

　問題は主張の客観性だが、フランスのLinux販売会社マンドレークソフトは、「よく知られていることだが、マイクロソフトは“事実”の定義を拡大解釈する傾向がある。（バルマーCEOが）報告書で“事実”と言及しているのは、もともとマイクロソフトが資金援助して行った研究で得られた成果。独立性は疑わしい」（広報担当者）としている。

　もちろん全部が全部、自前のレポートということは考えにくいが、ヤンキーグループの例でもわかるように、引用箇所によっては全く別の色合いに化けるのがレポートというもの。読み手は両方の言い分を慎重に聞き分けてバランス良く判断すべきだろう。

　ところで、この「Get the Facts」運動はマイクロソフトが巨大なマーケティング費用をかけて行っている。オープンソース陣営はマイクロソフトの言い分にいろいろと反撃するばかりで反マイクロソフトキャンペーンということでは特に1ドルも出していない。いわばタダ乗り。

　この点について、シカゴの投資調査会社ディケイタージョーンズのディオン・コルネット氏の調査メモで、「マイクロソフトのキャンペーンはLinuxが自社ビジネスを脅かす存在であることを自認すようなもので、逆効果になり兼ねない」と警告している。

　因みに今回のバルマー・メモはLinux潰しに専念するあまりだろうか、アドレス解除方法を書き忘れてしまった。社長メモが「スパム」とは思わなかったからに違いないが、内容が何であれ自社広告のメール配信にはあらかじめ送り先に承諾が必要で、断る方法を明記しなくてはならない。そのため「これは明らかにスパム禁止法が定める違法スパム」と反スパム団体が騒ぐオマケまでついた。

　これだけ頑張った成果が「スパマー扱い」では、バルマーCEOも浮かばれない…。（市村佐登美）