「インフラ」から「情報活用」に

「オープンワールド」で基幹製品の最新版発表

　オラクル（ラリー・エリソンCEO）が提唱してきた「グリッド・コンピューティング」の輪郭が明瞭になってきた。12月6日から9日までの4日間にわたって米サンフランシスコで開催された「オラクル・オープンワールド・サンフランシスコ」において、同社は「ジ・インフォメーション・カンパニー」を宣言、企業に真の情報が活用できる環境を提供するため、「オラクル10g」ファミリー基幹製品の最新版を発表するとともに、新たな製品群を付け加え、2005年半ばに一斉リリースする方針を示した。部門別の周辺製品についても強化を打ち出しており、ハードやソフトベンダーが競って実現を目指す「グリッド・コンピューティング」において、多彩なアプローチでプレゼンスを確保する考えだ。（山本雅則●取材／文）

■コストや効率面での優位性アピール　新規ライセンスで2ケタの伸び

　「（昨年発表した）10gリリース1はインフラに特化してきた。今回の10gリリース2は、アプリケーションをリソースとして考え、そのリソースを共有することで、グリッドの概念をインフォメーションに適用しようとしている」。オラクルのチャック・ロズワット・エグゼクティブバイスプレジデントは、同社のグリッド戦略が、約1年の期間を経て新たな段階に入ったことを明らかにした。

　グリッド・コンピューティングのために設計した基幹製品「データベース10g」、「アプリケーションサーバー10g」、「エンタープライズマネージャー10g」を送り出し、各種ベンチマークでパフォーマンスやスループットの向上を実証。コストや効率面でも競合製品より30％も短い期間、20％も少ない工数でグリッドの実現が可能であるとアピールしてきた。この結果、「データベース10gリリース1」は、競合他社のデータベースが伸び悩むなか、新規ライセンスで2ケタの伸びとなっている。「今年2月の出荷開始から、米政府機関や大手金融機関などインストールベースで約200の顧客を獲得」（アンディ・メンデルソン・データベース担当シニアバイスプレジデント）したという。

　最新版のデータベース10gリリース2では、新たなソート技術を搭載し作業パフォーマンスを大幅に向上させたほか、アプリケーションの可用性向上、バックアップやストレージ管理の自動化を推進した。また、セキュリティ機能やアプリケーション開発機能なども強化。アプリケーションサーバーでも、SOA（サービスオリエンテッドアーキテクチャ）機能を拡張し、グリッドに焦点を当てながら使いやすさも追求している。

■企業内の情報資産統合を実現「データハブ」の製品化も目指す

　一方、新たな製品ファミリーとして、「コラボレーションスイート10g」、「エンタープライズサーチ10g」、「ビジネスインテリジェンス10g」を加えた。戦略的な分析・レポートへの対応や企業内に蓄積された情報資産の統合、企業内コンテンツの管理といった機能についても、グリッドという範ちゅうのなかで実現していくのが狙いとなっている。

　さらに、さまざまなアプリケーションが稼動するシステム上で管理するデータを統合し、単一のデータベース化を図ることを目的にした「データハブ」について、今年発売した「顧客データハブ」に続き、「製品」、「市民」、「財務統合」、「金融サービスアカウンティング」などの分野でも製品化を進める方針を明らかにしている。

　ラリー・エリソンCEOは、「現在の企業の置かれた状況は、何百、何千のデータを断片的にしか共有できない状態にある。これはデータの存在の仕方が間違っているためだ」と指摘する。企業での情報インフラの整備は進んだが、その情報を有効活用するところまでは到達していない。意思決定のためには、事実や数字に基づいた情報が何より重要とし、解決には単一のグローバルなデータベースを運用することだという。

　そのためにオラクルは、「Eビジネススイート」の一括導入と、既存システムも活用できる「データハブ」という2つの「解」を提供していく。

　拡張性があり、低コストで、安定的に、単一のグローバルなデータベースを構築するためにも「グリッド」は不可欠な要素であり、オラクルはそのための布石を着々と整備している。

■気になる次の一手　ピープルソフト買収問題決着

　18か月にわたり続いていたオラクルによるピープルソフト買収劇が、ようやく決着した。オラクルが「最終的な提案」としてきた1株あたりのTOB（株式公開買い付け）価格24ドルを2.5ドル上積みし、26.5ドルとすることでピープルソフト経営陣も買収を受け入れた。買収総額は約103億ドル（約1兆800億円）にのぼる。

　サンフランシスコで12月6日から開催された「オラクル・オープンワールド・サンフランシスコ」会場でも、ピープルソフト買収問題は大きな関心を集めていた。オラクルのチャールズ・フィリップ社長の記者会見では当然、ピープルソフト買収問題に質問が集中。ピープルソフトが定款に定めるポイズン・ピル（買収防御）条項について、デラウエア州裁判所が追加証言などを求めていたため、具体的な言及を避けていたが、「ピープルソフト製品によるデータも、オラクルの新たなデータハブ戦略の中に含まれている」というのは、買収成功への自信を示したわけだ。

　また、BCNの取材に対してオラクルのジェフ・ヘンリー取締役会議長も、「ピープルソフト買収は戦略的に重要。アプリケーションビジネスが大きくなり、影響力が拡大することは顧客にとってもメリットになる」と指摘していた。

　買収交渉が成立したことで、ソフト産業や投資家の関心は、オラクルの“次の一手”に移る。「ピープルソフト買収の成否にかかわらず、進化のためのM＆A（買収・合併）は続ける」（ヘンリー取締役会議長）としていたが、買収資金の大半がローンに頼ることになるため、有利な資金調達を行うにはオラクルに対する投資家の興味を維持させていく必要がある。ラリー・エリソンCEOは「（ピープルソフト買収により）1株あたり利益は今後も増加する」との見通しを示すが、それだけでは説得力に乏しい。ERP市場における対SAP戦略の面からも、次の一手は重要な意味を持つ。

　米国のソフト産業においては、新たな大型M＆Aも取り沙汰されているだけに、2005年も目が離せない状況が続きそうだ。