国内メーカーのシェアを脅かす

　海外の通信関連機器メーカーが日本市場でのIP電話ビジネス拡大を本格化している。

　IP関連ビジネス大手の米アバイアは、ハードウェアだけでなく、〝コミュニケーション〟を切り口としたアプリケーションソフトウェアの開発に力を入れることで、「IP関連製品で社内業務の効率を高めるトータルソリューションを提供していく」（ドナルド・K・ピーターソン会長兼CEO）方針を掲げている。日本市場に関しては、「日本の大手メーカーが強い。しかし、チャレンジのしがいがある市場」（マーク・レイ・アジアパシフィックプレジデント）と見ている。「ユーザー企業のIP電話導入意欲が高い、という点で市場自体が成長することは確か。まずはコールセンターなど特定業界向けのビジネスが主流となるが、パートナー企業との協業関係を強化し対象業界を拡げていく」（同）と、着実なビジネス浸透を狙っている。同社ではパートナープログラム「デベロッパーズコネクション」をこのほど策定。同社の日本法人である日本アバイアは、このプログラムを武器にシステムインテグレータ（SI）などとのアライアンスを強化していく。

　欧州大手の仏アルカテルの日本法人、日本アルカテルは国内での販売をルータだけにとどめていたが、IPコミュニケーションソフトウェアの「オムニーピーシエックス・エンタープライズ」を市場投入し、IPテレフォニー市場への本格参入に踏み切った。当面は、コールセンターのほか、医療関係や教育機関などの特定分野でビジネスを手がけていくものの、「今年中には一般企業での導入も出てくるのではないか」（藤井克美社長）と予測する。

　日本は、沖電気工業やNECなどPBX（構内交換機）ビジネスで地歩を固めてきた大手メーカーがIPビジネスに進出。PBXからIP─PBXへの転換に力を注いでおり、シェアを高めてきた。ところが、ワールドワイドに目を向けると、日本以外ではPBXメーカーが必ずしも強いというわけではない。IP化が進むことで通信だけでなくネットワーク機器、コンピュータベンダー間でのシェア争いが激しくなる状況だ。

　海外メーカーが日本市場でのシェア拡大に乗り出す理由は、「これまで活用していたPBXと同じメーカー製のIP関連機器を必ずしも採用しているわけではない」（日本アルカテルの藤井社長）と市場参入のチャンスが大きいためだ。「SIやディストリビュータなどにとって、ソリューションを提供しやすい製品を販売する」（同）ことでシェア拡大は可能と見ている。

　しかも、国内メーカーがITとIPの統合システムなど1社すべてで社内のネットワークインフラから情報システムまでの構築を徹底しようとしている一方で、海外メーカーは、「マルチベンダー化を推進していく」（米アバイアのピーターソン会長兼CEO）ことでコスト的にも有利とアピールする。「ハードウェアメーカーがIPサーバーでコアとなる当社のソフトウェアを採用することになれば、当社がIPセントレックスを提供するなど次のビジネスにつながる」（同）と、波及効果にも期待を寄せる。

　「（日本は）欧米に比べればIPテレフォニーの導入が遅い。ユーザー企業を開拓する余地がある」（日本アルカテルの藤井社長）と、国内大手メーカーのシェアを脅かす可能性は大きいという。IPテレフォニー市場で、海外勢がメジャーになることも十分あり得る。現に、電話交換機のような一大〝安定〟市場はすでになく、ハイエンドスイッチ市場はシスコシステムズやジュニパーネットワークスなどが席巻している。(佐相彰彦●取材／文)