営業利益3000億円の実現は?

　2006年度（07年3月期）に営業利益3000億円を達成することは難しい──。富士通の黒川博昭社長は、このほど開催した05年度経営方針説明会そう切り出した。04年度に打ち出した中期経営計画の営業利益見通しは、1年が経過した05年度の時点で早くも崩れることになった。

　最大の要因は、04年度にソフト・サービス事業のシステムインテグレーション（SI）で不採算案件を多く受注したことに加え、価格下落の影響がはっきりしてきたため。黒川社長は、「04年度期初の時点では、原価率を1％下げれば06年度には3000億円を達成できると考えていた。しかし、実際に原価率を下げることは簡単なことではないと分かった」と、結果的に〝取らぬ狸の皮算用〟に終わった。

　ソフト・サービス事業の不採算案件に関しては、昨年10月の時点で150億円のマイナスが生じ、1月には300億円程度、結果的に05年3月期末で570億円まで達した。こうした案件は、01年度から03年度上期にかけて受注したものが多く135件に上る。「当社が苦しかった時期に必死になって獲得した案件が不採算案件になってしまった」という。売り上げ拡大に躍起になるあまり、先の利益の見通しを失っていた。この結果、04年度期初に見込んでいた2000億円の営業利益が、実際は営業利益1601億円と400億円も見通しを下回ることに。

　「06年度に営業利益3000億円」を掲げたとたんに出鼻をくじかれた同社だが、「04年度下期からは、安定して成長できる企業体質を作ることに力を注いだ」と訴える。05年度以降は、確実に増収増益が達成できるという。

　05年度方針として掲げているのは、既存ビジネスの徹底した体質強化、新事業の創出および成長、フォーメーションの革新、マネジメントシステムの革新──など。ソフト・サービス事業で04年度下期から本格的に行っている営業とシステムエンジニア（SE）の一体化を生かし、プロジェクトリスクの管理徹底による原価率の改善を図っていくほか、プロダクト事業で生産および開発の改善やグローバル事業の強化、デバイス事業でアナログやマイコンなど基盤ビジネスでの収益を確実に得る。ほかにも、セキュリティやヘルスケア、ITS（高度道路交通システム）などを切り口にブロードバンドネットワークを活用した新しいビジネス領域に踏み込んでいく。各事業を伸ばす基盤として、生産から設計・開発、調達などのプロセスでQCD（品質・コスト・納期）の改善、原価低減を追求。「商品力の強化による販売の増加で再投資につなげるプラスのスパイラルをつくり上げる」と、何としてでも成長軌道に乗せたい考え。

　しかし課題は多い。不採算案件については、「04年度で不採算案件の75％を処理している」ものの、残りの25％は、「06年度までかかる」という。それにも関わらず、05年度の事業方針は「新しい事業方針を掲げるのではなく、昨年掲げた目標を徹底し、加速するもの」と、方針を変更していないことを示している。

　同社は、01年度に744億円の営業赤字に転落。SIの生産性や品質の向上、コストダウンなどの構造改革により02年度は1004億円の営業黒字に転換、それ以降は、営業黒字が続いている。06年度の計画については公表を控えたが、「個人的には営業利益3000億円はあきらめたわけではない」。

　現状のビジネス基盤では、「営業利益として過去最高だった2400億─2500億円の水準になるのは07年度」。3000億円規模の営業利益達成には、価格下落などの影響を排除し、さらにコストダウンが必要になる、ということだ。(佐相彰彦●取材／文)