海外子会社を〝収益アップ〟の拠点に

　大手・中堅のシステムインテグレータ（SI）やソフトウェアハウスが、中国やインドなどに開発子会社を設ける動きはもはや珍しいことではない。ソフト開発プロジェクトを進めるなかで、労働コストの安価な開発者を活用することにより、開発コストを削減することがその目的。IT需要が緩やかに回復しているなかでも、顧客からの低価格化要求は依然強い。利益捻出のための開発コスト削減策として、安価な海外技術者に目を向けるのは当然の動きだろう。

　オフショア開発で実績のある中堅SIのSRAの鹿島亨社長は、「開発コストは単純に日本のソフト開発会社に比べ3分の1」とし、今年度（2006年3月期）は800人月をインドの開発子会社に発注する大規模な計画を立てる。

　そうしたなかで、海外子会社の活用に新たな動きが出てきた。開発拠点として機能する海外子会社を、受託ビジネスで収益アップの拠点に育てようとするベンダーが出てきたのだ。海外開発拠点を自社だけで利用するのではなく、他のITベンダーからの受託ビジネスにも活用する。つまり、海外子会社の技術者を〝外販〟し、収益アップに貢献させようとしているわけだ。

　中堅SIの富士通システムソリューションズ（Fsol、聖五社長）は01年11月、中国・上海に開発拠点を設け、オフショア開発をスタートした。「開始直後は思うようにコストを削減できなかった」というが、「試行錯誤を繰り返し、ようやく思うようにコスト削減が図れるようになってきた」（社長）という。社長はオフショア開発を活用するためには、「予想以上に独自のノウハウが必要だった」と、振り返る。

　この上海子会社は現在100人体制で、自社だけのソフト開発プロジェクトの下請け先として開発を請け負ってきたが、今年度からは（06年3月期）は新たな取り組みに挑んでいる。

　今年度中に開発者を50人増員して150人体制にし、自社利用だけでなく、「オフショア開発を使いたいという他のITベンダーにも上海拠点を使ってもらうようにする」（社長）。自社だけでなく、他のITベンダーにも自社の海外拠点を使わせ、自社の開発コスト削減と、独立した収益の両面で貢献する拠点として機能させる考えだ。まず協力会社などに声をかけ、上海子会社では、Fsolの案件だけでなく他社の開発プロジェクトも受託できるようにする。

　ITベンダーからの下請けでソフト開発を手がけるソフトウェアサイエンス（池田吉郎社長）は、日本のベンダーを通じて、「オフショア開発を最近活用し始めた」（池田社長）という。「海外に発注しやすい案件を厳選し、コスト削減を進めている」（池田社長）としており、日本のベンダーを仲介役とすることで、オフショア開発を成功させたという。

　オフショア開発は、開発環境や商習慣の違いなどから、開発の初期段階では予測できなかったトラブルが起こり、赤字の原因となるケースがある。また、「1人月100万円が相場」（業界関係者）ともいわれる日本語と英語の分かるシステムエンジニア「ブリッジSE」の活用にもコストがかかり、思うようにコストが削減できないという声も決して少なくない。

　海外に開発拠点を設置し、試行錯誤を繰り返すなかで蓄積されたノウハウや知識は、オフショア開発で失敗しているITベンダーが多いだけに大きな武器になる。海外の開発子会社が独立した収益をあげる拠点として成長する可能性は広がっている。(木村剛士●取材／文)