売り込み先は“非IT部門”へも

　情報セキュリティビジネスは、依然衰えをみせることなく活況が続いている。「大企業・中堅企業が、セキュリティ対策が十分ではない企業とは取引しないという風潮が強まっている」（西川靖彦・大塚商会マーケティング本部テクニカルプロモーション部OSMグループ2課課長）ことから、ここにきて中小企業からのニーズも顕在化。顧客企業の規模に関係なく需要が伸びている。

　顧客層が広がり、セキュリティ事業は今や、ITビジネスの成長には欠かせない分野になりつつある。

　成長の要因は、情報セキュリティビジネスのカバー範囲が広がってきたことにある。「個人情報保護法」に対応するためには、情報システムの保護だけでは難しいことが、情報セキュリティの範囲を劇的に広げた。不正プログラムの外部からの侵入を防ぐ製品や内部からの情報漏えいを守る製品に加え、セキュリティ対策に関する人材育成、社内の情報管理体制の整備など、情報システムとは無縁の領域にまでビジネスの範囲は拡大している。

　このことは、セキュリティ製品・サービスの営業先、つまり売り込みに行く顧客先の部署にも大きな変化をもたらしている。

　IT製品・サービスの売り込み先と言えば、これまでは大半が情報システム部門。しかし、社内の情報管理体制強化やセキュリティに対する社員教育は、総務部門や経営企画部門が担当するケースもある。このような場合は、情報システム部門ではなく、総務や経営企画などの〝非IT部門〟に売り込んだ方が商談が進みやすいケースもあるという。

　セキュリティ機器開発・販売のアズジェントは、顧客のセキュリティ対策の課題を浮き彫りにし、対策が甘い部分を指摘するソフトベースのツール「マジックポリシーシリーズ」を提供している。情報システムに関してだけではなく、社内の情報管理方法などもチェック範囲となる。

　同社の横田肇子・セキュリティプロダクツ事業部マーケティング部営業企画リーダーは、「マジックポリシー」の販売についてこう話す。

「マジックポリシーを利用するユーザーは、情報システムだけでなく、紙文書など社内の情報管理全般も熟知している必要がある。デジタル情報以外の情報管理は総務部門が担当しているケースがあり、総務部門に売り込んだ方が良い場合がある」。

　あるシステムインテグレータ（SI）では、「社内の情報管理強化に向けたコンサルティングサービスの飛び込み営業先として、戦略的に総務部門、経営企画部門を攻めている」と話す。セキュリティコンサルティングでは、情報システムの強化提案よりも、まずは社内の管理体制整備を図ることが多いからだ。

　情報システム部門が情報資産を多く握る部署であることは間違いない。しかし、広範囲にわたるセキュリティビジネスは、もはやITの枠を超えている。セキュリティ対策は情報システム部門だけの業務ではなくなっており、情報システム部門だけが売り込み先とは限らないのだ。

　CSO（最高セキュリティ責任者）を任命し、セキュリティ対策専門部署がある企業であれば、その専門部署に営業すればよいだろうが、今の段階では専門部署を持っている企業はあまりない。

　範囲が広がったセキュリティ市場でビジネスを拡大させていくためには、情報システム部門に加え、総務や経営企画などの非IT部門も営業先として視野に入れることが必要になってきた。 木村剛士●取材／文