地産地消が進展

　新たな産業振興の柱として、地方自治体によるIT産業育成の動きが活発化している。従来の振興施策のように、起業支援のための環境や補助制度を整備するだけでなく、IT企業の「やる気」を刺激して地力を発揮させ、「実利」にも結びつけてもらうのが狙いだ。行政という立場からの施策である以上、さまざまな制約も出てくる。それでも、不可抗力で事業機会を逸していた企業にとっては歓迎できる状況が生まれつつあるようだ。

　岡山県はこのほど、「岡山県地域ITベンチャー企業等優先発注制度」を創設した。技術力を有しながらも、脆弱な基礎体力と乏しい資金力に苦しむ県内のITベンチャー企業に対し、県の一部の役務を優先的に発注し、ビジネスチャンスの拡大につなげてもらおうという制度。行政の情報システムは、円滑な運用が大前提であるため、大手ベンダーが受注する場合が多かったのは事実で、必ずしも地元企業がプロジェクトに参画できていたわけではない。地元企業にとっては、いわば「不可抗力」の壁が存在していた。その解消も、制度の狙いの1つだ。

　行政の発注案件のすべてが地元企業で対応できるわけではないし、行政による過度の介入は競争政策上の問題ともなる。そこで、制度自体に強制力は持たせず、対象業者や対象事業にも明確に要件を定めた。対象事業者は、創業10年以内で、従業員数20人以下としたうえで、県の関係課長などで構成する資格審査会の認定を必要とすることにした。対象事業も、ITを活用して提供される県のサービスのうち、メインフレームに係る業務、システム等の保守管理・運営などに係る業務、全国統一基準により発注先が限定される業務、県・市町村連携により全県的に共同して実施される業務──は除外することとしている。つまり、ベンチャー振興施策でもあり、大型案件が対象ではない、という「但し書き」を入れたうえで、実施要綱や認定された登録事業者（今回は48社）の詳細についても公表し、透明性の確保を図った。中国地方の他県のIT企業経営者は、「思い切って踏み込んだな」と率直な感想を漏らす。

　まだ発注案件は出ておらず、実際の運用にあたっても、発注部局に自由度を持たせてあるため、すぐにも利用されるわけではない。「創設したばかりで、要件への適合性から選定した。スキルまでは把握できていないが、運用するなかで定着してくれれば」（企画振興部情報政策課）というのが本音だ。

　一方、岡山県と同様に県内企業への発注機会拡大のためのガイドライン制定に動いている鳥取県。それまで、あまり連携していなかった鳥取県情報産業協会との関係も密にし、今夏から制定に向け動き出している。ただし、具体的なスケジュールは見えていない。「ガイドラインづくりだけでなく、県内で開催される全国的なイベントでの情報発信や産官学連携の場を作る作業も同時進行しているため」（企画部情報政策課）としている。「行政のペースで進んでおり、まどろっこしい面はある」（鳥取県内のIT企業）が、必ずしも批判的ではない様子。

　その理由は、片山善博知事の「地産地消」方針が明確であることが第一点。加えて、「行政の発する言葉が（望ましい方向に）変わってきている」（県内IT企業）こともある。ガイドラインの有無にかかわらず、やる気のある企業には随意発注も増やすようなニュアンスも感じられるという。「今は見えにくいかもしれないが、この2か月ほどで変化は出ると思う」（同）との声もある。

　地方のIT施策は、実を結びつつあるようだ。 山本雅則（大阪駐在）●取材／文