先行2社に挑む後発ベンダー

　10月から11月にかけては、コンシューマ向けセキュリティソフトの新バージョンが各社から相次いで発売されるシーズン。今年は例年にも増して、セキュリティベンダー各社がパソコンへのバンドル提供を重視している。

　従来からバンドル提供に力を入れるシマンテック、マカフィーの2社に加え、トレンドマイクロが大手メーカー製パソコンへのバンドル提供を強化する方針を固めた。

　さらに、コンピュータ・アソシエイツ（CA）とキングソフトの新規参入組も、バンドル提供に対し積極的な姿勢を見せている。これまでショップ販売とダウンロード販売、ネット接続サービスとのセット販売に注力してきたセキュリティベンダーも、重点チャネルとしてパソコンへのバンドルを狙っている。

　その理由として、トレンドマイクロの沢昭彦・マーケティング統括本部統括本部長バイスプレジデントは、「パソコンを購入したとき、バンドルされたソフトを使う傾向がセキュリティ分野では高い」と見る。

　トレンドマイクロは、家電量販店などのショップオリジナルパソコンで、昨夏からバンドルに力を入れてきたが、大手メーカー製については、これまでは一貫して消極的な態度だった。今回、沢バイスプレジデントが打ち出した大手メーカー製パソコンのバンドル強化は、同社が市場参入して以来初めての大きな方針転換だ。圧倒的な販売ボリュームを誇るショップ、販売本数が急速に伸びているダウンロード販売に加え、新規顧客獲得の重点チャネルとしてパソコンへのバンドルを位置付けた。

　新規参入組も積極的だ。今年4月にコンシューマ市場に参入し、9月に新バージョンを発表したCA。同社の三ッ森隆司社長は、「（バンドルは）当然重要なチャネルであり、入り込みたい」と強調。参入に意欲を示している。　また、中国のウイルス対策ソフトベンダーで、今年9月中旬に日本市場に参入した金山軟件股有限公司の日本法人であるキングソフトの広沢一郎社長は、「参入直前にパソコンメーカーと交渉したが、参入障壁は高い」と、真っ先に大手メーカーへのバンドルを狙って交渉したことを明かす。そのうえで、「実績が出てきたら反応も違うだろう。長期的な視点で交渉を我慢強く進めていく」と、バンドルに参入できなかったもどかしさを滲ませる。

　利益率が低いパソコンで儲けを出すために、パソコンメーカーはソフトのバンドルを1つのビジネスにしている。「バンドルを依頼する際に、その費用を請求するメーカーが増えてきた」（大手セキュリティソフトベンダー幹部）という。更新が見込めないソフトを扱うベンダーには、費用が発生するならばパソコンにバンドルするメリットは少ない。だが、セキュリティソフトは違う。

　セキュリティソフトは毎年ライセンスを更新しなければウイルスなどの不正プログラムの侵入を防止できないため、ライセンス期限切れの際、同じソフトに更新するユーザーは他ジャンルソフトに比べ圧倒的に多い。そのため、たとえ費用負担のせいでソフト販売での利益が薄くても、その後の更新費用で稼げる期待がある。新規顧客を獲得するための手立てとしてパソコンを利用したいという思惑が見える。

　セキュリティソフトのバンドルで先行するマカフィーは、再参入した約2年前からショップ販売よりもバンドルを重視する考えを貫き、今では大半の大手メーカー製パソコンにバンドルされる状況を築いた。この2年、マカフィーが先行している分野にトレンドマイクロ、そして新規参入組がどれほど入り込めるか。ショップでの本数シェア争いと同様に熱を帯びそうだ。 木村剛士●取材／文