中長期的な経営効果に軸足を

　上場企業の内部統制強化で〝場当たり的〟な対応が目立っている。上場企業の中には、予算や時間の制約を理由に、内部統制の基準を満たすためだけの消極的な措置しか講じない動きが出ており、内部統制に詳しい専門家から「意味がない投資で、中長期的な経営効果も期待薄」と、警鐘を鳴らす声が強まっている。

　内部統制の強化は、従来の財務会計の監査と同様に、監査法人などの監査の対象となる見込みだ。定められた基準に達していなければ「限定意見」が付けられ、そのまま放置し続けると上場基準を満たさないと判断されることもある。限定意見とは、監査法人などが〝この問題部分を除いて大丈夫〟と指摘するもので、セキュリティやネットワーク、アクセス権限の設定など、内部統制を強化する上で弱点となるあらゆる項目が〝問題部分〟に指摘される可能性がある。

　企業はこうした限定意見を嫌い、内部統制を維持するうえで欠かせない情報システムの見直しに着手している。例えば、ネット証券やEC（電子商取引）を手がけるIT系企業などで〝内部統制で重大な欠陥がある〟と指摘されれば、本業のビジネスに大きな打撃を与えかねないだけに、抜本的にシステムの見直しに着手しているところもある。

　一方で、最低限の手当で内部統制関連の監査をクリアしたいという場当たり的な考えも根強くあり、ITベンダー側も〝これとこれを手直しすればクリアしますよ〟という低レベルな提案に終始するケースが見られる。

　内部統制の強化だけを取り上げれば、売り上げや利益に直結するものではない。だが、本来、内部統制の強化とは、業務プロセスそのものの見直しであり、その過程において不合理な部分、潜在的なリスクになる部分を発見し、改革していくことで中長期的企業価値を高めていくことにあるはずだ。ITシステムの観点から見れば、販売や生産など各部門ごとにデータベースが分断されている従来のシステムのままではシームレスな内部統制は望めないため、統合された業務システムへの移行が望ましい。

　内部統制のあり方を審議する企業会計審議会内部統制部会臨時委員の堀江正之・日本大学商学部教授は「中長期的、全体的な視野に基づいたシステムが求められる」と、その場しのぎの手直しでは、内部統制の観点から見ても不十分であるばかりか、投資そのものが生きてこないと警鐘を鳴らす。

　内部統制強化は企業活動を抑制する〝ブレーキ〟ではなく、全社的な基幹システムを見直す絶好の〝アクセル〟だとプラスに捉えることが、投資を最大限に生かす方策だといえる。ITベンダーは、対症療法的な手直しでは経営効果は期待できず、企業経営全体を最適化するシステムの抜本的な改革提案こそが本筋だと再認識すべきだろう。

　金融庁では内部統制強化の実施に向けて準備を進めており、動きが早い企業では2008年3月期の決算から対応する見通しだ。国内約3800社の上場企業を中心に今後2－3年間で2兆円規模の内部統制関連の投資が見込まれており、このうちIT関連の投資は09年までに7000億円規模になるとの予測もある。企業会計に詳しい劉慕和・日本大学商学部専任講師は「全体最適に基づく設計思想のEA（エンタープライズアーキテクチャ）が見直されている」と、内部統制強化を機会に中長期的な視野に立ったシステムづくりが大切だと話す。

　監査を通すための投資ではなく、真に投資対効果が得られる提案がITベンダーに求められている。 安藤章司●取材／文