「控えめな目標」が意味するもの

　富士通ビジネスシステム（FJB、鈴木國明社長）が2月に発表した中期経営計画の内容が話題を集めている。

　3年後の2008年度（09年3月期）の連結売上高を今年度見込み比で約11％増の1870億円、営業利益約56％増の56億円に増やすというものだが、成長率の「見通しが低すぎるのではないか」（富士通関係者）との見方が一部にある。売上高の年平均伸長率は3.4％と低めに設定し、営業利益率は3％としている。営業利益率は「本来5％欲しい」と鈴木社長も控えめな目標であることを認める。

　低成長率の背景にはハードウェア販売・保守の単価下落があげられる。00年頃のハード販売の売上総利益率（粗利率）は全体の約半分を占めていたが、ここ数年は大幅に縮小。今年度はソフト・サービス事業が粗利の50％を超える勢いで増えており、08年度には粗利の約7割をソフト・サービス事業で稼ぎ出すことを目指す。

　ハード販売の伸び率を低めに見積り、かつ高粗利率が見込めるソフト・サービスに軸足を移すことで利益率拡大を狙う考えだ。ディーラー体質からの脱却を図り、ソフト・サービスを主体とするソリューションビジネスへの移行を急ピッチで進めなければ、粗利率の改善は見込めないというFJBの危機感が現れている。

　しかし、業界関係者の中からは、富士通の販売会社という枠組みがある限り「ソリューションへの移行は簡単ではない」という声が聞こえてくる。メーカー製品を販売するディーラーと、顧客の経営課題を解決するソリューションでは立ち位置が異なることがその理由だ。これに対してFJBは、販売管理システムを主軸とする主力の自社開発アプリケーションやITマネージメントサービス（ITMS）は完全なオープンシステム対応であり、「メーカー依存ではなく、顧客本位の仕組み」と強調する。現行体制でもソリューションビジネスは問題なく遂行できるというのがFJBの考え方だ。

　独自業務アプリには今後3年間で30億円規模の投資を行うことで、より綿密な業種対応を進めて差別化を図る。これにITMSなどを組み合わせた中堅中小企業向けの自社ソリューション事業の売上高は今年度490億円の見込みに対して08年度は22％増の600億円を目指す。コンサルティングスキルのある営業を現在の180人から450人に増やし、粗利率拡大にアクセルを踏む。

　選択と集中も進める。民需を中心とした中堅中小市場がメインの活動フィールドとし、自治体のサブシステムや医療、金融、文教関連の一部以外は「捨てる」と明言する。個別のソフト開発が必要な大企業向けの案件は富士通へ移管するなど富士通本体との棲み分けを明確化する。

　ハードの低価格化に伴い縮小傾向が続くハード保守はグループ会社の富士通サポートアンドサービス（Fsas）への移管を進める。グループの相乗効果を狙ったものだが、そもそも粗利率の低いビジネスをFsasが抵抗なく受け入れるかどうかは不透明だ。富士通もハード製品のシェア拡大にFJBを積極的に活用する構えを見せており、グループ内での綱引きが早くも水面下で活発化している。

　中期目標をあえて控えめな数値で公表した背景には、批判を覚悟で富士通グループの利害関係から距離を置きたいという同社の思惑も見え隠れする。

　「内部ではもっと高い目標を掲げる」と強気の姿勢を崩さないが、揺れる富士通トップディーラーの道のりは平坦とは言い難いようだ。 安藤章司●取材／文