レガシーかオープンか

　この4月から、IT新改革計画がスタートする。レセプト処理の完全オンライン化、遠隔医療の実現、教育現場のIT化など、5年前にe─Japan構想が目標に掲げた内容が引き続き継承される一方、世界への情報発信や国内産業の国際競争力強化、環境負荷の軽減に資するITの利活用などが盛り込まれた。これからアプリケーションを充実していこう、というわけだ。

　とはいえ、ブロードバンドが普及したのはひとえにソフトバンクの参入が大きな要因だったという実態や、「IT担当大臣はいったい何をしているんだ」「e─Japan構想で国内IT産業はかえって衰退したのではないか」という指摘もあって、IT新改革戦略では国家的見地に立った大きな戦略の立案が求められている。

　縮小された公共事業の代替として総花的に展開せず、選択と集中による効果的な予算投入が望まれることはいうまでもないのだが、ここにきて首をかしげたくなることがある。

　e─Japan構想の〝目玉〟だった電子自治体システムの構築が、「三歩進んで二歩下がる」という状態に陥っているのだ。その最大の要因はいうまでもなく財政難だが、電子自治体システムの構築にブレーキをかけているのは、基幹系システムとパソコンなのである。

　市町村における基幹系システムというのは住民記録や税管理など、行政事務の運営に欠かせない手続き処理型システムを指す。そうしたシステムは、西暦2000年（Y2K）問題をクリアするため、99年をピークに改修が行われた。それが8年目に入ってリプレースの時期を迎えている。加えて平成の大合併でシステム統合も行わなければならない。

　パソコンは「職員1人1台」を目標に01年度以後、庁内LANと並行して盛んに導入された。それが5年間のリースアップ時期に入っている。「基幹系とフロント系の再構築が先、電子自治体システムの構築は小休止」というのが実情だが、そこに「レガシーかオープンか」という、まことに悩ましい問題がからんでいるのである。

　読者の多くは、「何をいまさら」と思うに違いない。一般的な論調では、レガシーシステムは拡張性に欠け、費用対効果が低いとされる。これに対してオープンシステムは柔軟で拡張性に富み、費用対効果が高いとされてきた。

　筆者はこれまで何度となく、「地方公共団体の情報システムについて、レガシーは金がかかり、オープンは安くできる、という対置的発想は短絡的で妄想に近い」と主張してきたが、総務省をはじめ識者・論者とされる多くは考えを改めようとしなかった。

　ところが実際、市町村における基幹系システムは、オープンに対してレガシーのほうが運用費、保守管理費とも3割ほど低いのである。市町村の基幹系システムは70年代から構築が進められ、完成度が高いからなのだという。手馴れた職員がいて、法制度の改定に伴う改良にも容易に対応できたからだった。にもかかわらず、e─Japan構想のなかで総務省はひたすらオープンソースの利用を推奨してきた。

　「では、これからはオープン系で行こう」と方針を決めたところ、今度は調達基準で「ソフトウェア・プラットフォームにセキュリティ認証が必須」という。レガシーないし特定メーカーの特定プロダクトへの回帰を推奨しているようにも理解される。いったいどっちなんだ、というのが市町村IT担当者の本音ではあるまいか。 佃 均●取材／文