影響なし？ 現場には懸念も

　「Vistaの発売延期の影響はない」。先頃来日した米デルのマイケル・デル会長は記者会見で、報道陣の予想を裏切る回答をしてみせた。

　3月22日、マイクロソフトは、コンシューマ向けWindows　Vistaの発売時期を11月から、来年1月に延期すると発表した。

　年間最大規模となるクリスマス商戦に、今年最大の目玉となるVistaを投入できない痛手は大きい。だが、それにもかかわらず、デル会長は影響がないと言い切ったのだ。理由はいくつかある。

　まず第１に、デルのパソコン出荷の約85％がビジネス用途であり、コンシューマ向けはわずか15％にすぎないということ。２つめにはVistaの遅れによる一時的な買い控えはあるにせよ、長期的視点では影響が少ないこと。さらに加えて、「来年1月のほうが、検証などにも十分な時間がとれ、万全の準備ができる」とも語った。

　JEITAの岡村正会長も、「遅れが逆に呼び水になり、むしろ需要の上昇に結びつくかもしれない」と、発売延期について楽観的な見通しを示す。また、インテルの吉田和正共同社長も、「Viivの普及という意味では、Vista発売が重要なタイミングとなるが、Centrinoの浸透に3年かかったように、長期的視点で挑んでいるViivの戦略プランに変更はない」と話す。

　業界関係者は、Vistaの発売延期は、それほど大きな影響がないと判断しているようだ。また、国産メーカーからもこんな声が聞かれる。

　「11月のVista発売に比べ、1月のほうが、製品投入計画が繁雑にならない」──。　11月のVista発売では、8月下旬から9月にかけて秋冬モデルを投入、11月にVista搭載の冬モデルを投入し、12月下旬から1月にかけて春モデルを投入するという製品プランを主要各社は描いていた。今年下期は、2か月に1回という新製品投入になる強行ぶりだ。だが、これが1月のVista発売となれば、9月から10月にかけて冬モデルを投入し、それで年末商戦を乗り切り、1月にVista搭載の春モデルを投入するというスケジュールになる。

　利益確保を最優先課題とするPCメーカーにしてみれば、なるべく少ない新製品投入で需要を掘り起こすことができれば、それに越したことはない。Vista延期によって、正常な製品投入プランが描けるというわけだ。

　だが、Vista延期を手放しで楽観視しているわけではない。

　コンシューマPC市場は昨年後半から成長率が鈍化しており、BCNの調べによると今年1月の販売台数は前年同期比104.5%。トリノオリンピック効果も、需要に反映できていないのが実態だ。また、業界筋の予測では、前年実績が高かった後半には、前年割れになるとの見方も出ており、年末にVistaという目玉商品を失った影響は小さくない。

　メーカー各社は、Vsitaへのスムースな移行を実現するCapablePC（WindowsXPなどではReadyPCと呼ばれていた）を、今年4月以降に順次出荷する夏モデルから投入することになるが、これはあくまでも「つなぎ」の製品でしかない。半年以上にわたる期間と、夏と冬の２回の商戦期を、「つなぎ」の製品で乗り越えるばかりでなく、CapablePCの名称や意味を浸透させなくてはならない労力は、メーカーにとって決してプラスにはならない。

　業界幹部の楽観的な発言とは裏腹に、メーカーや販売店の現場では、すでに懸念の色が広がっている。 大河原克行（ジャーナリスト）●取材／文