保守・運用が利益確保のカギに

　「システム構築だけでは利益確保は難しくなる」──。活況なはずの医療機関向けITビジネスについて、病院のシステム構築で25年の経験を持つSIerはこう説明する。法改正などが追い風となって、ビジネスの拡大が期待される医療機関。だが、意外にも単なるシステム構築だけでは利益確保が困難だという。

　病院を中心とした医療機関向けITビジネスには、医事会計や電子カルテシステムなど複数の情報システムがある。診療所を除き、全国約9100ある病院のなかで電子カルテシステムを導入しているのはまだわずか500程度だ。厚生労働省は、2008年度から医療機関が医療費を保険請求する際のレセプト（診療報酬明細書）のオンライン化を、大規模病院から順次義務づける計画を策定。13年度以降オンライン以外での請求は認められなくなるため、レセプトシステムの需要が今年度から急増する可能性が高い。診療所を含めると約10万6000件の医療マーケットに、大きなビジネスの機会が埋まっているわけだ。

　それでは、前出の中堅SIerの慎重な発言は、どういうことなのか。その背景には、06年度から始まる診療報酬の引き下げが影を落としている。下げ幅は約3・2％と過去最大で、医療機関の財政状態が苦しくなるのは必至。IT投資は増えるものの、「価格の叩きあいは避けられない」という懸念があるからだ。

　すでに先行しているSIerでは、価格競争に備えた対応に動き出している。利益確保のための答えが保守・運用サービスだという。

　保守・運用サービスは、ハードの価格下落の影響でサービス単価は下がり、厳しいビジネスになっている。しかし、医療機関では情報システム担当者が不在で、ベンダーへの〝丸投げ指向〟が強い。そのため、システムのトラブル処理をはじめ、医者や事務担当者のアプリケーションの操作に関する問い合わせなど、単なるハード保守だけではなく、総合的な運用保守サービスを求める傾向が強い。付加価値が高く、利益を稼ぎやすいわけだ。

　約1000の医療機関のシステム構築を手がけた日本事務器（NJC、大塚孝一社長）。4年前には医療・福祉市場に特化した事業部を組織し、昨年度は売上高の約3分の1を医療・福祉分野で占めた。同社は運用・保守サービスを重視し、03年に医療機関向け保守・運用サービスの専門子会社「NJCメディカルサービス」を設立している。保守サービス担当者を100人揃え、コールセンターは365日対応する。子会社社長を兼務するNJCの岸正常務取締役は、「病院向け事業は総合力が勝負。電子カルテや医事会計、レセプトなどすべてのシステムを手がけ、保守まで面倒を見られることが絶対条件」と説明する。「NJCほどの保守サービス体制を持っている企業は少ない」（真川光司・医療福祉事業推進本部計画部部長）状況から、ここが強みとなり利益確保に貢献している。今年度は医療向けビジネスで前年度比10％増を見込む。

　富士通サポート＆サービス（Fsas）は、技術者を病院に常駐させる運用保守サービスを強化中だ。すでに約20病院に常駐型運用サービスを提供しているが、今年度は新規で10病院への提供を目指す。常駐型運用サービスを手がけられる企業は少なく、この部分が強みとなる。システム構築は富士通、保守運用サービスはFsasの連携で、総合的なITサービスを提供する体制を築く。

　チャンスが埋まっている医療機関向けビジネスだが、総合力と医療業務を熟知した上での保守・運用サービス体制が欠かせない。医療機関向けビジネスに注目する企業は多いが、参入障壁はけっして低くはない。 木村剛士●取材／文