流通網を切り開く一助に

　「開発生産性を2倍に向上させる」だけでなく、「流通網を切り開く」──。富士通とマイクロソフトが、SOA（サービス指向アーキテクチャ）の技術を取り入れ中堅企業に業務システムの導入を促進するための協業は、そんな目論見も背景にあった。

　富士通は2004年6月、ISVやSIerの業務システムと富士通のミドルウェア、ハードウェアを組み込み、事前検証した「Piテンプレート」として構築し、共同で市場へ波及させる「パートナーアリーナ」制度を開始。今回の協業は、この仕組みの〝弱点〟を補うことを狙ったものといえそうだ。

　「Piテンプレート」は、納期短縮や早期導入に一定の成果があった。05年度（06年3月期）は、富士通の中堅企業市場向け売上高シェアが、前年比数％伸び、14─15％に達した。だが、既存システムや追加システムと「Piテンプレート」をつなぐ際、「手組みの開発が必要だった」（和泉久夫・パートナーアリーナプロジェクト部長）という。

　この〝弱点〟を解消するために考案されたのが、両社が提唱するSOAのスキームである。両社は、ISVやSIerが提供する業務パッケージ間のデータを連携・統合するために、帳票やデータ分析、画面統合など6つの「SOAベースモデル」を提供。このモデルを利用目的別に組み合わせ事前検証し、富士通が提供するデータ連携用のミドルウェア「サービスバス」、ISVやSIerがもつ販売管理や会計などのパッケージ、富士通のサーバーを組み合わせ企業へ導入する。

　これにより、販売管理や会計などのフォーマットが異なるデータをシームレスに受け渡したり、データを統合して分析することができる業務システムを簡単に構築できる〝SOAパック〟とも呼べる短期導入・低コストのモデルができあがるというのだ。

　これまでの「Piテンプレート」は、「富士通系の販社には浸透して、ある程度の実績は上がった」（和泉部長）。しかし、システム同士を手組みでつなぐ煩わしさがあり、「パートナーアリーナ」に参加するオービックビジネスコンサルタント（OBC）などISVの主力流通網である事務機ディーラーには訴求できていなかったのが実情だ。だが、今回、両社が提唱するスキームにより、〝手離れのいい商材〟を好む販社を拡大することになると富士通ではみている。

　このSOAのスキームが及ぼす効果は「それだけではない」と和泉部長は説明する。これまで、「パートナーアリーナ」に参加するISVは、ERP（統合基幹業務システム）やCRM（顧客情報管理）、会計システムなどバックエンド系が主流だった。しかし、「中堅企業のシステムをSOAベースで構築できれば、追加開発が容易になり、フロントエンド系も取り込める」（和泉部長）と、EIP（企業情報ポータル）やSFA（営業支援システム）などを開発するISVの参加を増やせると期待している。

　2年前、富士通が「パートナーアリーナ」を開始したことで、ハードとミドルウェアをもつ大手メーカーやその販社が同様の仕組みを開始した。今回の協業を受けて、今後、他の大手メーカーが追随することもありそうだ。 谷畑良胤●取材／文