人材戦略の抜本的な見直しが急務

　ソフトウェア開発の国際分業が急ピッチで進むなか、人材育成のあり方が変わろうとしている。

　国内では国際的な分業に耐えうる人材確保が求められる一方、海外においては日本語を理解する優秀なプログラマ・SEの育成にどう取り組むかが課題になっている。短期間で日本語を習得できる教育プログラムにも注目が集まっており、国際的な人材戦略をどう展開するかで競争力に差が出てきそうだ。

　慢性的な人手不足に悩むソフト開発業界だが、これは国内だけにとどまる問題ではない。海外ではさらに深刻だ。オフショア開発の主戦場になっている中国では、そもそも日系企業のブランド力が低く、欧米企業に比べて「出世しにくい」というイメージが浸透。さらに日本語の壁に阻まれて優秀な人材を確保しにくい状況が続いている。

　中国など海外への発注量が増えている割に、人材育成への投資は進んでいないのだ。

　IT技術者の人材育成に詳しい慶應義塾大学環境情報学部の大岩元・教授は、「今の日本のソフト開発産業は、日本語ができる少数の海外技術者への依存度を急速に高めている」ことから、海外技術者の育成が後手に回っていると懸念する。優秀な技術者を揃えたとしても、コミュニケーションで失敗すれば開発プロジェクトそのものが揺らぎかねない。

　こうした背景もあり、効率的に日本語教育を行う教育カリキュラムを開発した岩崎言語教育プログラム開発（岩崎美紀子社長）への引き合いが急増。特定業界向けに開発したカリキュラムではないものの、「近年の大口需要先はIT業界になりつつある」（岩崎社長）という。ビジネスで通用する実用的な日本語をわずか4か月の集中講座で身につけられる効率のよさが評価され、大岩教授も推奨するほどだ。

　課題は言葉だけではない。日本のソフト開発ベンダーに不足しているのは海外での「人材登用の仕組み」だと、アジア経済に詳しい九州大学アジア総合政策センターアジア社会科学研究部門の国吉澄夫・教授は指摘する。

　中国の若者は日本人以上に上昇志向が強く、ソフト開発の下流工程ばかり押しつけられたり、幹部が日本人で固められて出世の見込みが薄い環境を嫌う。不満が解消されなければ離職率の増大に直結する。

　国内では、以前は花形だったプログラマが、いまや長時間労働で低収入といったマイナスイメージの浸透で、学生の人気は下がる一方。これに少子高齢化が追い打ちをかける。生産性を高めるには人材豊富な中国などとの国際分業を推進してカバーしていくしかない。教育現場からも「アジア近隣との協力関係を構築できるリーダシップをもった人材の育成が大切」（高田孝次・長岡工業高等専門学校長）との声が挙がる。

　企業の価値は国内だけにとどまるものではなく、海を越えて増大させなければならない。とかく国内に目が向きがちなソフト開発産業だが、国際的なプロデュース能力を高め、グローバルな人材シフトや再配置を強力に進めていく必要がありそうだ。 安藤章司●取材／文