ツール導入？いや「人間系」を見直せ

　「内部統制関連の特需がある」──ERP（基幹統合システム）、ワークフローやセキュリティなど「IT統制」を支える可能性のあるプロダクトを開発・販売するITベンダー担当者は口々にこう漏らし、鼻息も荒い。

　ERPベンダーのなかには「当社のERPを導入すれば内部統制体制が整う」と、ERPがすべての解決策とばかりに喧伝する例もある。こうしたベンダーが「攻め」の姿勢なのに対し、上場企業を顧客に持つ中堅・大手SIベンダーの間では「守り」の言動が目立つ。表向きは「内部統制ソリューションを開始」など、今年に入り、大手SIベンダーも内部統制に関する取り組みを相次ぎ表明。ERPやデータ証跡用ツール、文書管理ソフトウェアなどが並ぶ。ただ、「今すぐに、プロダクトが急速に売れることはない」と、慎重なのだ。

　「内部統制」という言葉だけ聞くと、管理を厳格化する印象を受ける。「そうではない」というのが中堅・大手SIベンダーの声だ。富士通の小村元・内部統制事業推進室長は「業務を効率よく正確に遂行する仕組みと捉えるべき」、日立製作所の谷岡克昭・uVALUEビジネスインキュベーション本部担当部長も「金融商品取引法施行を機に、ITの業務全般を変えてみてはどうか」という。

　まずは、「財務報告の信頼性」にかかわる内部統制を強化の第一歩として、業務プロセスごとに想定されるリスクを洗い出し、個々のリスクに対する統制活動の記述文書「リスクコントロールマトリックス（RCM）」を作成するなど、IT統制に関連する全体像をつかむことから始める必要性を問う。つまり、ユーザー企業の内部監査の方法論など「人間系」の部分から改善を支援し、プロダクトは段階的に導入すべきとの考えだ。

　NECネクサソリューションズは、「IT統制支援ソリューション」として、ERPやIT資産管理製品などの導入支援や内部統制の「業務処理統制」の状況を評価するコンサルティング・サービスを体系化し提供を始めた。それでも、当面はコンサルティングや企業の内部監査に関するアウトソーシングが中心になるとみている。宮越一郎・マーケティング部グループマネージャーは「まずは、企業内部のルールづくりを支援するが、ツールを売り大幅に利益を底上げするのはまだ先の段階」と、同社も「守り」を中心に構える。

　当面は、同社の中心顧客である上場企業を対象に診断などを実施する。では、早急にプロダクトが導入されることはないと腹をくくりながら、なぜ現段階から「内部統制」をうたうのか？その理由は「既存顧客に対し、別のベンダーが診断サービスなどをして不具合が見つかれば、顧客の全システムを奪われる可能性がある」（宮越マネージャー）からだ。

　逆に「上場企業を持たないベンダーは、新規獲得のチャンスになる」（同）と分析。確かに、業務プロセス構築に時間を要する文書管理ツールや証跡や認証管理のワークフローなどは、今から需要はありそう。内部統制の仕組みは、一度枠組みをつくって終わりではなく、常に有効に機能しているかを継続的に証明する必要があり、安易な製品導入だと、システム全体が形骸化する恐れがあるといえる。