SIer各社、業務アプリとの連携を模索

　「モバイルセントレックス」を提供するSIerが、業務アプリケーションと連携したシステム・サービスの提供を模索している。モバイルセントレックスとは、携帯電話を内線電話としても利用できるシステムやサービス。社内ネットワークをIP化するため、通話コストを削減できたり、社内のどこにいても内線電話が受けられるといった業務効率の点で注目を集めていたが、投資効果が低いことから、ユーザー企業の導入意識はまだそれほど高くはないようだ。だが、SIerにとっては事業拡大につなげるため、携帯電話向けアプリケーションサービスの提供が求められている。（佐相彰彦●取材／文）

■05年度の市場規模は62億円

　モバイルセントレックス市場は、通信事業者が携帯電話向け内線通話サービスを相次ぎ提供し始めた2004年から立ち上がった。

　ユーザー企業は、1台の携帯電話で外線と内線の両方で利用できる利便性や、オフィスのレイアウト変更時に回線工事が不必要なこと、ネットワークのIP化で通話コストが削減できるといった理由で導入。多くの拠点を持つ大企業を中心に普及しつつあるという。民間調査会社の富士キメラ総研は、05年度の市場規模は62億円だったとしている。

　市場が拡大傾向にあるため、PBXメーカー各社はモバイルセントレックスが大企業に加えてSMB（中堅・中小企業）にも普及するとみている。NECでは、「企業規模を問わず、IPネットワーク導入機運が高まっているため、モバイルセントレックスの対象顧客もすそ野が広がる」（石原伸一・UNIVERGEソリューション推進本部UNIVERGEサポートセンター長）という。富士通でも、「“モバイル”は、IP－PBXのトレンドのひとつとしてあげられる。今年度後半から来年度初めにかけて、SMBによるモバイルセントレックスのニーズが高まることは間違いない」（大森秀晃・ネットワークサービス推進部プロジェクト課長）としている。

　PBXメーカーが顧客増加に期待しているのは、通信事業者がモバイルセントレックスに適した携帯電話として、2種類の通信方式に対応する「デュアル端末」のラインアップを増やしていることも背景にある。

■まず社内ネットワークのIP化

　SMB市場で近い将来、需要が増大するといったPBXメーカーの見解とは裏腹に、SMB向けビジネスが得意なSIerの反応は鈍い。大塚商会は、「携帯電話を外線と内線の両方で使えるという切り口で顧客企業に提案しても導入にはつながらない。モバイルセントレックスよりも投資額が少なくて済むPHSで、同じ環境が実現できるからだ」（北川達史・企業通信システム営業部次長）という。

　ディーアイエスソリューションは、「SMBでは、まず社内ネットワーク全体のIP化が先決になっている。モバイルのIP化は次の段階」（渋谷修司・取締役東京営業部長）と言い切る。そのため、同社は現段階でIPテレフォニーシステムの顧客企業を増やすことに力を注いでいるという。

　企業の導入意欲を促進するためには、「ERP（統合基幹業務）やCRM（顧客情報管理）など業務アプリケーションと連携したソリューションの提供が重要」（大塚商会の北川次長）としている。アプリケーションサービスとして、現段階はスケジュール管理が可能になるなど簡単な機能搭載のグループウェア提供が多いようだ。「今は顧客ニーズがぼんやりとしているため、さまざまな提案でニーズをつくり出すことに力を入れている。将来的には、ユニファイドメッセージング、画像や動画などを組み合わせたサービスなど、IPネットワークを最大限に生かしたアプリケーションに対してニーズが高まってくるのではないか」（大塚商会の北川次長）。

　これらの声を総合してみると、携帯電話に適した“キラーアプリケーションサービス”を生み出したSIerこそが、モバイルセントレックス事業を急拡大させることになりそうだ。