本質見抜くエンジニアが不足

　なぜ日本の業務パッケージソフトウェアは世界で売れにくいのか──。このことを突き詰めて考えると、人材のあり方にたどり着く。

　そもそも国内で根強い需要がある受託開発ソフトとの違いはどこにあるのか。業務ソフトである点で何ら変わりはない。しかし開発コンセプトがまるで違う。個別開発する受託ソフトは顧客の望み通りにつくり込む。対してパッケージソフトはできるだけ多くの顧客のニーズを満たすよう努める必要がある。

　個別開発には顧客が望むことを従順に取り入れるエンジニアが求められるのに対して、パッケージソフト開発では豊かで柔軟な発想力をもつなど特質が異なる人材を揃えなければならない。

　ERPベンダーのワークスアプリケーションズの牧野正幸CEOは、「個別開発ソフトはプロジェクトマネジメント型で、パッケージソフトは研究開発型の技術者が求められている」とみる。

　パッケージソフトのエンジニアは異常なまでのこだわりをもって研究開発に没頭する。納期やコストを度外視しかねないこうした取り組みは、特定顧客の要望に従って納期通りに粛々と開発を進めていく個別開発の現場では評価されない。パッケージソフトの技術者とは資質が異なるというのだ。

　だが、ユーザーである顧客企業の「うちの会社は特殊だから」という理由で個別開発を行うケースは依然として多い。個別開発を得意とするベンダーからは、「国内企業同士でも業務管理方式がまったく異なるのに、世界市場をターゲットとしたパッケージは所詮無理がある」という声も聞こえてくる。

　国内有数のプロセス管理ソフトを開発したソフトブレーンの宋文洲・マネジメント・アドバイザーは、「本質を見抜く力やコンセプト力を高めることでパッケージの適用範囲を広げることは可能」だと指摘する。例えば、友人宅を訪問して夕食をいただく。日本人は残さず食べるのが礼儀であり、中国人はわざと残して感謝の気持ちを示す。

　「残すのと残さないのとでは180度違うので、別々のソフトをつくらないと対応できないと考えるのは本質を見誤っている。本質は〝共に礼儀と感謝の心を大切にすること〟」だという。これをソフトに置き換えるならば〝残す〟オプションと〝残さない〟オプションの2つ用意すればいいだけだ。

　寓話「ウサギとカメ」を例にとっても、「彼らは同じゴール、同じルールのもとで競走している。毛のあるウサギと甲羅のあるカメの違いは本質でない。途中の昼寝の有無をオプションに加えればいいだけ」と宋アドバイザーは考える。

　本質を見抜き、しっかりとしたコンセプトと宣伝力で顧客に訴えることで国や文化の壁は越えられる。日本のパッケージソフトベンダーは〝うちは特殊だから〟というユーザーの言葉に左右されすぎて、本質を見抜く目が弱かった。

　顧客の要望通りのすばらしいプログラムが書ける職人的な技術力はもちろん大切だ。しかし世界で通用するパッケージソフトの開発には本質を見極め、斬新な発想力で適用範囲を世界規模に広げていく創造的なエンジニアが求められる。