アドビシステムズ（ギャレット・イルグ社長）は“脱ブラウザ戦略”を推進する。インターネットブラウザに依存しない実行環境プラットフォームを無償で提供。この上にフラッシュやPDFなどアドビシステムズのコア技術を使ったアプリケーションを実行できるようにする。ブラウザやOSの違いによる制限を取り払うことでより、自由度の高いクライアントアプリケーションを実現する。ブラウザ上で動くウェブアプリケーションを自社プラットフォームに取り込むことで、ビジネスチャンスの拡大を狙う。

　独自の実行環境プラットフォームの開発コード名は「Apollo（アポロ）」で、今年半ばをめどに投入する予定だ。動画再生ソフトの「フラッシュ」で有名なマクロメディアの買収を2005年12月に完了。アドビシステムズの文書フォーマットのPDFなどとの融合を進めてきた。アポロは両社の製品を統合的に運用できる開発プラットフォームとして、ソフト開発ベンダーやSIerなどに無償で提供する。

　アポロはウィンドウズやマック、リナックスの主要OSへの対応を予定している。インターネット上で動作するウェブアプリケーションをアポロに取り込むことでブラウザへの依存解消を推進する。これまでのアプリケーションはOSやインターネットブラウザの違いに合わせるために何通りもの種類を開発しなければならなかった。これに対して、アポロをベースに開発すれば「1回の開発で主要OSをカバーし、ブラウザの違いも意識しなくて済むようになる」（イルグ社長）と開発コストの大幅な軽減に役立つ。

　フラッシュやPDFなどアポロはアドビシステムズ独自のアプリケーションに対応している。アポロが普及すれば自社製品の拡販にも結びつく。またHTMLやAjaxなどオープンな技術ですでに広く普及している規格にも対応する。HTMLなどと同様にフラッシュやPDFも広く使われていることから「新しい技術を覚え直すことなく従来どおりアプリケーションを開発できる」と、開発者の負担も少ないという。

　ウェブアプリケーションとの最大の違いは、ブラウザへの依存がないことに加えてオフラインでも動作する点にある。ネットへの接続の有無を検知する機能がアポロに備わっており、オフライン時はパソコン内に蓄積してある情報のみで動かすことも可能だ。これまでのウェブアプリケーションの多くは、常時オンラインであり続ける必要があったのに比べて、使い勝手を改善した。

　今後はアポロをベースにアプリケーションを開発するソフト開発ベンダーやSIerをどれだけ多く取り込めるかが事業拡大のカギになりそうだ。