成功事例をどう増やすかが課題

　今年3月で終了予定だった中小企業のIT化を促進する「IT経営応援隊」事業が延長される見通しだ。経済産業省が中心となり全国約7000人のITコーディネータ（ITC）を主力の実行部隊として展開する大型事業である。延長期間は未定だが政府の「IT新改革戦略」の目標設定の期限が2010年であることから「3年延長」が有力視される。

　IT経営応援隊の前身のITSSP（ITソリューションスクエアプロジェクト）が99年にスタート。ITを活用して企業経営を活性化させる活動を通じてITC制度を定着させたり、経営者研修による経営トップの啓発などで一定の成果を上げてきた。04年にはIT経営の成功事例を公表するIT経営百選を創設。昨年行われた第2回目のIT経営百選では第1回目の111事例より大幅に多い160事例を創出した。今年はIT経営力大賞に名称を変えて300事例をつくる目標を立てる。

　ただ課題は多い。まず中核的役割を担うITCの活動にバラツキがみられること。短期間のうちに会計士や税理士、IT技術者など多方面から人材を集めたことから活動の方向性にズレが生じている。またユーザーである中小企業がITCに仕事を依頼しようにも、どのような実績を積んできたかみえにくい。

　次にユーザー企業の経営者と二人三脚でIT化を推進する内部人材の育成である。経営トップがIT活用の必要性に気づき、ITCなどを活用して自己分析を進める初期段階の仕組みはほぼできあがってきた。だが内部でIT化を推進し、陳腐化させないよう常に新しい技術を採り入れて実践していくには経営トップを支える内部人材の育成が急務だ。

　3つめは応援隊事業の成果の集大成ともいえる成功事例の創出件数のボリューム。IT新改革戦略では10年に1000事例を公表する目標を掲げており、第1回と第2回のIT経営百選で選出された事例のうち重複分を除くとまだ200事例あまり。単純に応援隊事業だけで目標を達成するとすれば毎年平均260以上の新規事例を創り出さなければならない。

　経産省ではITCの経歴や実績の詳細がインターネットなどで簡単に一覧できるよう関係団体に働きかけるとともに、実績の多いITCに実績が少ないITCが見習える〝後輩の育成〟の仕組みづくりも検討する。同時にユーザー企業内部でIT経営を実践する人材育成にも取り組む。内部人材のあるべき姿として「IT経営マイスター」という新たな人材像を想定。具体的な政策の検討に着手した。

　応援隊事業関連の来年度予算は約5億円の方向で調整しており、今年度よりも1割ほど増額になる見通し。

　厳しい見方をすれば、今年度で応援隊事業を終了すれば99年来連綿と創りあげてきたIT化支援の人脈や基盤が崩れる危機感の現れともとれる。本来であれば補助金なしでも成功事例を創出できるようになり、事業は終了するはずだった。一部地域では国の予算なしでも自立して活動する組織ができつつあるが、そうでない地域も依然として多い。課題をどう乗り越え、成功事例を増やし続けられるかがカギになる。事業の継続に甘んじてはいられない。