「多様性」を競争力に結びつける

　大手SIerでダイバーシティが見直されている。伊藤忠テクノソリューションズや日立ソフトウェアエンジニアリングが相次いでダイバーシティ（多様性）の取り組み強化を表明。これまでの遅れを取り戻す動きを活発化させている。多様性を競争力の向上に結びつけることで勝ち残りを狙うものだ。

　多様性を受け入れるダイバーシティは、欧米企業でいち早く導入されてきた考え方である。人種や宗教、障害者、先住民族、女性など企業社会におけるマイノリティの力を引き出し、企業全体の競争力を高める目的で採り入れられてきた。IT業界では米IBMが1995年に本格的な取り組みを始めており、国内SIerの間でも主に女性の力を活用する取り組みとして、じわじわと広がりをみせている。

　景気回復で産業全体の求人が活発化するにつれ、SI業界では深刻な人手不足に見舞われている。大手SIerでは新卒採用全体のうち1─2割の比率で女性を採用しているものの、入社後10年の間の離職率は男性の2倍に達するという。仕事の継続を望んでいても結婚、出産で辞めざる得ないケースが少なからずあり、企業側からみれば“育ててきた貴重な人材”を失ってきた。

　女性が仕事の継続を断念しなければならない原因のうち最も多いのが、「硬直的な勤務体系」だと、国内IT業界でいち早くダイバーシティに取り組んだ日本IBMの中村えり・ダイバーシティープログラムマネージャーは指摘する。ほかにも“身近に目標となる女性の上司、先輩がいない”、“昔から培われてきた男性中心の文化についてけない”などの理由があげられるという。

　在宅勤務や短時間就労など勤務環境の柔軟性を高めることによって、日本IBMはこの10年近い間に大きな改善を成し遂げた。98年当時の日本IBMの女性役員は1人しかいなかったが、今では執行役員を含む役員が4人に増え、その下の理事は10人ほどに増えた。部長や課長の実数は公開していないものの、「次世代の役員、理事を輩出するだけのボリュームになってきた」と胸を張る。

　IBMのグループ全体でみると、インドや中国など新興地域への進出を加速させている。人種や宗教など多様性の度合いは過去の例がないほど高まっており、ハンドリングに失敗すれば競争力を保てなくなる危険性がある。ちなみに、IBMのインドでの社員数は約6万人と、近年急増しており、日本IBM単体ベースの社員数約1万7000人を大幅に上回っている。

　国内SIerにおいても、多様性を受け入れて企業の活力に結びつけなければ競争力は確実に落ちる。IBMなど欧米大手ITベンダーが多様性を生かす一方、国内SIerが“貴重な人材”を失い続けるリスクは大きい。少子高齢化や生産基地のオフショア化の拡大など社会や経済の環境が大きく変化し、多様性を生かす時代の要請は高まる一方だ。

　日本IBMがそうであったように、ダイバーシティの取り組みを始めてから効果が目に見えてくるまでには“10年単位”の時間がかかる。腰を据えた中長期戦略を一刻も早く打ち立てることが求められている。