情報システム、一大転換期に

ビジネスモデルの変革迫られる

　情報システムのあり方が大きく変わろうとしている。データセンターへの集約が進展し、ITリソースを必要なだけ提供するオンデマンド方式への需要がより鮮明になってきたからだ。世界の大手ITベンダーはこぞってオンデマンドへの対応を表明する。しかし、国内のSIerの動きは鈍く、多くは一過性のシステム構築やソフト開発から抜け出せていない。この一大転換期を乗り越えるためにはデータセンターなど物理的なインフラの整備のみならず、製品やサービスの価格体系の見直しなど、ビジネスモデルそのものの変革が欠かせない。（安藤章司●取材／文）

■統合化需要が高まる

　既存の情報システムを再編し、統合させる需要が高まっている──。米IBMでソフトウェア事業を統括するスティーブ・ミルズ・シニアバイスプレジデントは、世界規模で情報システムの統合化が加速しているとの見方を表明する。

　1980年代から90年代前半にかけてクライアント・サーバー型のシステムが飛ぶように売れ、以降はインターネットをベースとしたアプリケーションへと売れ筋が変わってきた。今後は企業内に散在する種々雑多なシステムを再編・統合し、顧客や取引先などビジネスの当事者同士が分け隔てなくシステムを活用できるように改革が進む。

　企業や組織の壁を越えて際限なく広がる情報システムを支えるテクノロジーがSOA（サービス指向アーキテクチャ）であり、オンデマンドサービスである。米IBMはここに焦点を当てたビジネスを展開していく方針を明確に打ち出す。

　先月、オンデマンドサービス大手のセールスフォース・ドットコムの顧客情報管理サービスの採用が、今年10月に民営化する郵便局会社で決まった。業界では“将来の情報システムの流れを象徴する出来事”として注目された。

　セールスフォースは、他社のオンデマンド対応のアプリケーションと連携できる“マッシュアップ型”であるばかりか、最新バージョンでは取引先や顧客など社内外で共通のシステムを共有できる仕組みを強化している。カスタマイズも可能だ。ユーザーは自らシステムを所有することなく、迅速に最適なシステムを“サービス”として手にすることが可能になった。

■インフラ技術も出揃う

　インフラ部分に相当するバックエンド領域でも大きな異変が起きている。仮想化技術の加速度的な普及だ。

　オンデマンドサービスは、たとえば昼間の業務時間帯はアクセスが増え、夜間は減少するといった“利用頻度の波”がある。しかし、アクセスのピーク時に合わせて重厚長大なシステムを設計したのでは割に合わない。ここに仮想化技術を使えば、必要に応じてハードウェアのリソースを柔軟に増減でき、ベンダーはサービスの大幅なコスト削減が図れる。

　仮想化ソフトベンダー大手の米ヴイエムウェアはここ数年、毎年2倍近い売り上げの伸びを達成するなど世界中から引き合いが急増している。共同設立者のダイアン・グリーン社長は、「すべてのシステムは仮想化する」と話す。統合化やオンデマンドサービスの需要拡大が仮想化の普及を強力に後押しする。

　ユーザーインターフェース（UI）などフロントエンドの変化も激しい。米アドビシステムズは年内にリッチインターネットアプリケーション（RIA）の基盤技術の提供を始める。動画表示ソフトのFlashや文書表示ソフトのPDFなどの自社商材、Java、HTMLなどの業界標準を取り込んで、「表現力豊かなクライアント向けアプリケーション開発のプラットフォームに仕上げる」（ブルース・チゼンCEO）考えだ。

　これまでも米ネクサウェブやアクシスソフト、カールなど国内外のベンダーがクライアント向けのリッチアプリケーション基盤を提供していたが、これにソフト開発大手のアドビが参入することで、競争がより激しくなるのは間違いない。

■変化するビジネスモデル

　このように大きな変化の兆しがみえるにもかかわらず、SIerの動きは鈍い。

　バックエンドでは仮想化などの高度な技術を駆使し、フロントエンドではRIAなど最新の技術が活用される。同時にパフォーマンスの低下や停止は従来以上に許されなくなる。しかも、こうしたオンデマンドのシステムをユーザー自身が運用するのは難しく、必然的に整備の整ったデータセンターに運用を委託するケースが増えていく。SIerにとって運用サービスの受託は安定した収益が見込めるストックビジネスであり、経営の安定化にもつながるはずだ。

　しかし、中堅クラスのSIerの多くは24時間運用できる体制が十分にできていない。提供するシステムも従来型のクライアント・サーバー型であったり、HTMLやJavaでフロントエンド部分のみウェブ対応しているケースも散見される。製品やサービス価格もこれまでのシステムの売り切り型を前提としたものが多い。顧客からアウトソーシングの依頼を受けると、やむを得ずデータセンターを持つ大手ベンダーに丸投げする。これでは豊かな収益源を自ら手放しているのと同じだ。

　だが、一部では変化も見られる。日立情報システムズは中期経営計画の柱のひとつにオンデマンドサービスを打ち出したほか、JBグループは4月から運用サービスを事業の柱に位置づける専門会社を発足。大興電子通信も4月からデータセンターの規模を2倍に拡大するなど体制強化に乗り出した。セールスフォースと組んで日本郵政公社に顧客情報管理サービスを売り込んだのはNTTデータであり、日立ソフトウェアエンジニアリングもセールスフォースとの提携を通じてオンデマンドサービスのノウハウ吸収に力を入れる。

　グーグルやヤフー、アップルのiTunesなどコンシューマ領域におけるオンデマンドサービスは往々にしてユーザーを囲い込み、ベンダーの寡占化を引き起こしてきた。ビジネス領域においてもサービス提供事業者の集約＝SIerの寡占化が加速する可能性がある一方で、ユビキタス・オンデマンド時代にいち早く適応したSIerが頭角を現せるチャンスでもある。変化が激しければ激しいほど、ビジネスチャンスは大きいことを忘れてはならない。

【チャンスの芽】
・システムの統合化が世界規模で進んでいる現実を捉えよ。
・オンデマンド化は、SIerにとって傍観できない変革である。
・ 変革が大きければそれだけ大きなビジネスチャンスが広がる。