国内SIerがSaaS（Software as a Service）型の業務システムの提供を拡大している。日立情報システムズは、SaaS型のオンデマンドサービスを拡大するため、データセンター投資を拡大。他社に先行してSaaS型で人事・給与システムを提供するラクラスは、大企業向けの販売を増やす。「今後、SaaSが花開く」と、先行者利益の獲得を狙ったせめぎ合いが始まった。

ラクラス　大手SIと大企業を開拓
人事・給与システムを展開

　SaaS型で人事・給与システムやワークフローを提供するラクラス（北原佳郎社長）は、販売パートナーと協力して従業員500人以上の中堅・大企業の開拓を本格化させる。J─SOX法の影響で内部統制の早期整備を図る企業が増えると予測。各企業に応じたカスタマイズを加えても約3か月間で構築できる自社サービスを生かし、今年度（2007年12月期）の売上高を前年度に比べ2倍以上に伸ばす。

　同社は、IT系大手企業グループのシェアードサービスを6年間にわたり提供してきた専門家が独立して05年10月に設立。複数のユーザーでサーバーやデータベース（DB）を共有するマルチテナントをASPで提供した実績がある。企業設立後には、ネット通販会社のアスクルや人材会社のグロービス・グループなど、直販で従業員100─500人の企業20社に導入してきた。

　1月には、人事・給与システムがすでにある企業向けに人事書類をウェブ上で扱う「Lacrasio（ラクラスイオ）＋SaaS」の提供を開始。このほか、人事・給与システムの構築を行う「Lacrasio＋DB」や同業務全体をBPO（ビジネス・プロセス・アウトソーシング）方式で提供する「Lacrasio＋BPO」の3種類のサービスをしている。

　国内でSaaS型提供に対するニーズが高まり、人事・給与の業務プロセスを可視化する企業も増えているため、「人的リソースが不足し、先行投資を低減したい大企業への拡販を強化する。すでに引き合いも多い」（北原社長）ため、チャネル販売を増やす。公表はしていないが、人事系に強い大手SIベンダーなど複数のSIerと協業し、近く拡販に本腰を入れる計画だ。

　今年度の売上高は、前年度に比べ2.2倍を見込む。国内には競合他社がなく、SaaS型提供のニーズが高まっていることから、「09年度には株式公開できる」（北原社長）と意気込む。

日立情報システムズ　データセンター投資を倍増
オンデマンド対応急ぐ

　日立情報システムズ（原巖社長）は、データセンター関連の投資額を今年度（2008年3月期）倍増させる。複数あるセンターを統合的に運用するシステムや仮想化技術の導入によって「競争力の向上を狙う」（原社長）。自社の情報システム基盤を強化することでSaaSなど今後注力すべきオンデマンドサービスの立ち上げを急ぐ考えだ。

　同社は全国19か所のデータセンターを抱え、計1万台を超えるサーバーを稼働させている。2010年には計2万台に増える見通しで、膨大な数のサーバーをいかに効率化するかが課題になっていた。今回の投資増強によって複数のセンターを統合的に管理するシステムや仮想化技術の導入を加速させ、サーバー運用台数の規模が拡大しても効率的かつ柔軟にサービスを提供できるようにする。

　今年度のデータセンター関連投資額は昨年度の倍に相当する約50億円になる見通しで、07－10年度までの累計投資額は約200億円を見込む。

　今年2月には複数のデータセンターを統合的に運用する「統括コントロールセンタ」を新設。この統括センターを軸に計11か所のセンター運用を、今年度上期末までをめどに統合化させる。これにより運用効率が30％ほど向上する見通し。残る8か所のセンターは来年度中に統合化する予定で、最終的には現行センターの運用をすべて統合化する方針である。

　センターの統合運用システムは日立製作所の統合管理ソフト「JP1」をベースに開発したもので、仮想化では米ヴイエムウェア社などの仮想化ソフトを活用する。

　また、自社開発の販売・生産管理システムや各種業務アプリケーションなどのSaaS化も併せて推進することで、データセンターを中核とした独自のオンデマンドサービスの早期立ち上げを目指す。