無料オフィスソフト投入の狙い

　5月14日、ソースネクストはWebベースのオフィスソフトを無料で提供することを発表、β版の公開を始めた。2003年に「コモディティ戦略」を発表し、「1980円」という価格設定で存在感を高めた同社が、無料ソフトを投入したのは今回が初めて。無料での提供には踏み切っていなかったソースネクストが、これまでの戦略とは一線を画す挑戦を始めた真の狙いとは何か。

　松田憲幸社長は、無料提供の理由をこう説明している。「『メール』『ブラウザ』『オフィスソフト』の3つはインフラと呼んでもいいほど広く普及し誰でも使う。でも、そのなかでオフィスソフトだけ有料なのはおかしい」。有料にこだわり続けてきたなかで無料にしたのは、“インフラ”に位置するソフトだから。「ほかのソフトを無料で提供しようとは考えていない」と異例の施策であることを強調している。

　今回、ソースネクストが提供するソフト「ThinkFree てがるオフィス」は、「文書作成」「表計算」「プレゼンテーション」の3つのオフィス系機能を備える。「Word」「Excel」のようにオフラインでは利用できないが、Webの特性を生かし、付随サービスとしてインターネット上に作成したデータを保存できる1GBのストレージを用意。ネット上にデータがあるため、情報共有も簡単でそのための機能も備える。3つのオフィスソフトとデータ保存サービス、情報共有機能をすべて無料で提供するわけだ。

　現在はβ版の提供にとどまるが、今年9月に正規版をリリース。目標登録ユーザー数は来年9月までに100万人、10年までに400万人とした。

　正規版投入以降は収益に結び付けるための具体的な施策を矢継ぎ早に打つことにしている。時期は未定だが、オフラインでも利用できるモデルを有料で提供するほかオンラインストレージサービスの容量拡大版を月額や年額制で始めるなど「年内に2─3個は有料の製品・サービスを開始する」（小嶋智彰・経営企画室執行役員）計画だ。

　新しい事業の影もちらつく。「けっしてメインではない」（松田社長）が、ユーザー数を増やしメディアとしての価値を高めたうえで広告事業に乗り出すことも視野に入れているようだ。

　米グーグルに代表されるように、アプリケーションやシステムは無料で提供し、広告など付随サービスで収益を稼ぐビジネスが飛躍的に成長している。今回の施策は「グーグルのように広告ありきの事業とは違う」と松田社長は否定。ただ、“副次的な”広告事業とアプリケーションソフトに付随するサービスだけのビジネスに終始するとも思えない。「Web上の情報共有は今、テキストと動画だけにとどまっている。ワープロ文書、表計算、プレゼンテーション資料を全世界が共有できる広場があれば面白いはず」という小嶋執行役員の言葉に、新しいサービスビジネスの可能性を感じる。

　マイクロソフトが牛耳る市場へのチャレンジが成功するか、オンラインでしか使えないデメリットを乗り越えられるかという点が目先の注目点だが、もし「オフィス系データの広場」がつくられたなら、その後に生まれるビジネスはそれ以上にインパクトがありそうだ。