ベンチャーも自発的に内部統制を

　仲間内で会社を始めると、お互いの行動を信頼しきって、目が行き届かなくなりがちだそうだ。ベンチャー企業が陥りやすい落とし穴だといっていい。

　SIerが仕事を元請けして外注する際の取引相手として、資本の入っている子会社を選ぶか、もしくはコネクションのある企業に発注することが多い。仕事を新しく取りたくとも、実績が求められるため、小規模の開発会社は受注しにくい。

　こうしたなか、口座をもっている企業が下請け会社に口座を貸して仕事を丸投げする「口座貸し」で、小規模の開発会社が仕事を得る場合がある。小規模の開発会社にしてみれば、「『口座貸し』自体はそれがないと仕事が取れないため、そんなに悪いことではない」とも考える傾向がある。

　だが、間に企業が一つ入ると、金銭の流れが見えにくい。仲間内で会社を創業し、「口座貸し」を受けて仕事を得ていた開発会社の営業担当者が、口座を貸している企業と結託。請けた開発案件の金額を自分の会社に低く伝え、その差額分を営業担当者個人の口座に振り込んでいたという事件が実際に起こっている。

　請けた案件が赤字化するのはよくあることだが、あまりにも仕事の内容と見積もり金額の釣り合いが取れていないことに開発会社の経営者が気づき、調べたところ、営業担当者が金額の一部を横領していることが露呈したという。

　このケースは、ベンチャーなどで陥りがちな仲間割れで、開発会社が二重チェックなどの体制を取っていなかったことで起こった事件ともいえる。

　だが、情報サービスでは多重下請け構造になりやすく、金銭の流れを容易に曲げることができる環境にある。そのような環境にあることも、事件を起こしやすくしている。

過日、JISA（情報サービス産業協会）が、「情報サービス産業における内部統制ガイドライン」を策定した。システム障害や、労働形態、会計の不透明処理などで業界全体のイメージが低下する事件が続発したことから、今回の策定につながったという。

　内部統制では委託業務も有効性の評価範囲に入っていることから、ガイドラインでは受託の内容次第で非上場の中堅・中小などに関しても、対応の必要性が出てくる可能性があるとしている。

　J－SOX法（金融商品取引法）は上場企業と連結子会社、またその取引先などに焦点が当てられ、2008年施行に向けて準備が進んでいる。しかし、法規制の対象からはずれる小規模企業の実態はどうだろうか。

　最近は「見切り発車」はあまりない、とある下請けの開発会社は話すが、以前は開発が半分まで進んでから、見積もりが決まる場合などざらであったそうだし、今でも時々、口約束で仕事を始めることもあるらしい。

　多重下請けならば間接的にでも上場企業の開発案件に携わる機会は出てくる。取引先などから求められるので対応しておいたほうがいいというのでは消極的すぎる。いつ何が起こるか分からないわが身を守るためにも、社内での自発的な内部統制をきちんと実施したほうがよさそうだ。