日立製作所と米ヒューレット・パッカード（HP）による法人向けパソコン分野での提携発表から約5か月。日立が「HP Compaq」のブランドでデスクトップ型やノート型を発売した。今後は、日立がHPブランドでパソコンを販売することになったわけだが、“メーカーによるディストリビューション”というビジネスモデルは効果を現すのだろうか。（佐相彰彦●取材／文）

メーカーのディストリ化は奏功するか

■新製品として4機種を用意

　日立が「HP Compaq」のHPブランドで販売することになった法人向けパソコンは、デスクトップで「dc7700MT／CT」と「dc7700SF／CT」「dc5700SF／CT」の3機種、ノートで「6710b／CT」の1機種、合わせて4機種となる。新モデルの投入で、世界トップレベルにあるHP製パソコンの最新技術を積極的に取り込み、これまでのパソコン販売を通じて培ってきたユーザーサポートなどのノウハウを生かしたビジネスを手がけていく方針。省スペースや低価格、長期使用などといった法人向けパソコンに対するユーザーニーズの多様化に対応していくため、米HPとの提携に踏み切ったわけだ。

　日立の五十嵐肇・クライアント本部ビジネス統括部長代理は、「パソコンは差別化しにくい製品になった。価格面をはじめ、さまざまなニーズに対応するには部品の調達力がモノをいう。ハードで他社に負けない技術力を追求するよりも、ハードを使ったソリューションで付加価値を提供していくことが得策」としている。また、オープン価格で日立ブランドの製品よりも安くなる見込みだが、「部材コストが削減できるため、利幅は減らない」と言い切る。

　HPにとってもパソコン事業の拡大につながるようだ。日本HPの平松進也・パーソナルシステムズ事業統括デスクトップビジネス本部長は、「日本での出荷量が確実に増えるため、低価格で提供しても利益を確保できる」としている。しかも、「日立は自治体に強いなど、当社とは異なった分野でパソコンユーザーを獲得している。日立にとってはリプレースであり、当社にとっては新規顧客を獲得することになるため、国内でのパソコンビジネスが大きな飛躍を遂げる」と試算する。

■販社へのメリット提供が急務

　両社にとってメリットがあることから、法人向けパソコン分野での提携、日立はHPブランドで販売するということになったわけだが、日立の代理店にとってはメリットがあるのかといえば疑問だ。

　これまでは、日立ブランドのパソコンだからこそ前面に押し出して販売する意義もあったはず。しかし、今後は日立ブランドの法人向けパソコンはないことになる。日立の販社であるにもかかわらず、HPブランド製品を販売することになるわけで、何も日立の販社である必要がなくなるわけだ。

　これについて日立は、「当社経由のパソコンに関しては、当社がコールセンターなどサポートを行っていく。当社の色がなくなるというわけではない」（五十嵐部長代理）と強調。しかも、「当社がHPのディストリビュータとして機能することになるため、販売代理店にとっては在庫超過などの問題を解決できるのではないか」とみている。

　HPと提携する一方、日立は「シンクライアントに力を入れていく」という狙いもある。「他社との差別化が図れる」からだ。こうした思惑も含め、今回の製品が出てきたといえる。「近い将来、SMBにもシンクライアントが浸透する」とみている日立が、パソコンでディストリビュータになるという戦略を取ったのはうなずけないわけでもない。しかし、販売代理店を逃さないようにしなければ、クライアント事業そのものが崩壊する危険性もはらんでいる。