業界の壁をいかに越えるか

　EDI（電子データ交換）を巡る動きが活発化している。年内をめどに主要業界のトップからなる委員会を立ち上げ、業界を越えたEDIの実現に向けた準備が進んでいる。これまで業界別に普及が進んできたEDIだが、それぞれの通信規格などが異なり、相互接続性が低下。利便性を損なう大きな原因になっていた。来年度に向けて共通基盤を策定する枠組みをつくることで、業界の垣根を越えたEDIの実現を目指す動きが始まっている。（安藤章司●取材／文）

■利便性の低さが浮き彫りに

　経済産業省などが中心となって普及に努めてきたEDIだが、使い勝手の悪さのせいで利用頻度が低いことが課題となっている。

　日本情報処理開発協会の「平成18年度我が国産業界におけるEDI実態調査」によれば、EDIを一部でも取引に採用している企業は全体の8割近くに達している。十分に普及しているようだが、中身をみるとEDIを使った取引が全体の10％未満とする企業が全体の4割近くに達しており、利用頻度の低さが浮き彫りになった。従来通りの電話やFAXといった手段との併用が圧倒的に多いことがうかがえる。

　この背景には、EDIが特定の取引先としか使えないなど汎用性が低く、利便性を損なっていることがありそうだ。過去20年余りの取り組みによって主要業界には標準的なEDI規格が存在しているが、依然として独自方式にこだわる企業も多い。たとえ業界別の標準EDIを使っていても、業界をまたいだ取引を行おうとすれば、規格が合わずに思うように使えない。こうした互換性の低さが利用頻度の低下を招いているのが実状だ。

　課題を解決する新たな枠組みとして準備が進んでいるのが、主要業界トップからなる委員会を立ち上げ、業界を越えたEDIの実現を推進する案である。経産省などの支援を受け、年内をめどに経営者層を中心とする「情報経済社会基盤整備推進委員会」（仮称）を発足。下部組織として技術的な課題を解決するための「共通課題検討ワーキンググループ」（仮称）を有識者などでつくる計画である。

　業界団体のEDI推進協議会の事務局長で次世代電子商取引推進協議会の主席研究員を務める菅又久直氏は、「業際の壁を崩していくには、各業界トップのイニシアチブが不可欠」とし、包括的な視点でEDIの利便性向上を後押しする仕組みづくりが必要だと指摘する。

■先行3業種で共通化検討

　業界を越えたEDIを実現するための具体的な取り組みとして、いくつかの業界を先行的にピックアップし、業種の壁を打ち破るための課題を洗い出す準備も進んでいる。EDI活用が比較的活発な電気電子業界、流通形態が複雑な繊維業界、EDIの普及が進んでいないとされる建材住宅設備業界の3業種でまずは検討しており、相互運用の実現に向けた研究に着手する計画を立てる。

　電気電子業界は最先端の素材を繊維業界から調達するケースが多く、建材住宅設備業界なども繊維を多用する。繊維業界は石油化学業界から化繊の原料などを仕入れており、業界の壁を越えた取引が頻繁に行われている。しかし、現状ではデータ項目の定義の違いなどから、思うようにEDIが活用できていないケースが目立つという。これが“EDIは導入したが、取引全体に占める比率は低い”現象の背景にある。

　もうひとつ重要なのは、今後普及が期待される電子タグである。業界の壁を越えたEDIを構築するのと並行して、電子タグの運用に関するガイドラインを策定。これによりEDIをベースとする電子商取引の効率化を高め、新しい“情報経済社会基盤”の創出を狙う。EDIの規格と連動すれば、電子タグを使うメリットが明確化され、双方の普及に弾みがつく効果も期待できる。

　経済的な側面だけでなく、地球温暖化対策や製品リサイクル、化学物質管理など、「産業全体として解決しなければならない課題にも電子タグは有用」（菅又事務局長）と、次世代EDIとセットで取り組んでいくことが大切だと指摘する。

■中小企業で新たな動き

　EDIにはもうひとつの壁がある。

　「年商50億円の壁」と呼ばれるもので、前述の実態調査によれば、年商50億円以上のEDI導入率は9割以上に達しているのに対して、50億円未満は6割に届いていない。かつ企業の規模が小さくなればなるほどEDIにメリットを感じない比率が高まる傾向にある。発注者の大手企業が定めた独自規格に、受注者である中堅中小企業が従っているケースが依然として多く、これに社内のITインフラの未整備も相まってメリットが出にくい状況にあることがうかがえる。

　こうした壁に果敢に挑んでいる団体がある。中小企業向けの共通EDIの普及を推進する共通XML／EDI実用化推進協議会は、ASP（アプリケーションサービスの期間貸し）方式での共通EDIの実用化にこぎ着けた。大手ITベンダーの協力を得ながら、XMLを駆使し、異なるEDIデータを変換して利用者である中小企業にサービスとして提供するものだ。「今年度は普及に向けて大きく動き出す」（和田英男理事長）と手応えを得ており、長年の課題だったEDI規格の違いを乗り越えようとしている。将来的には、SaaS（ソフトウェアのサービス化）も視野に入れる。

　菅又事務局長は、「XMLなどの普及によって、データ変換の技術的な課題はほぼ解決の見通しが立っている。今後は、産業全体を網羅する大きな枠組みで横断的なルールづくりと推進力が求められている」とし、EDIの共通化に向けた動きを国全体で加速させていく時期にきていると分析する。

　逆の見方をすれば、現状のままではEDIの利用頻度はこれ以上高まらず、電子タグの有効活用もままならない。年内に新体制の枠組みをつくり、来年度にも国による予算措置を受けた本格的な活動への期待が高まる。

少子高齢化時代、生産性の向上による持続的な経済成長を成し遂げるためにも、次世代EDIを立ち上げる早期の体制づくりが求められる。

【チャンスの芽】
・複数業界を巻き込み、包括的な視点でEDIを変革する動きが活発化
・業界の壁を超えた“共通EDI”や“電子タグ”の市場創出の可能性
・ XMLなどオープンな規格に対応するEDIへの需要が本格的に高まる