「真の独立果たす時」が到来

　ライブドアホールディングス（ライブドアHD、平松庚三社長）は9月28日、傘下の業務ソフトウェア大手、弥生（飼沼健社長）の全株式を投資ファンドのMBKパートナーズに売却する。2004年11月に弥生が旧ライブドアへ全株式を譲渡した際の価額（230億円）にも衝撃が走ったが、この3倍以上になる710億円という今回の売却額に業界は驚愕した。

　二転三転と、親会社変更を繰り返す弥生。今度こそ、投資ファンドが転売益を得るための「好都合な企業」に成り下がることなく、早期に株式公開（IPO）を行い、「国産ISVの雄」として「真の独立」を果たす時が来たといえないだろうか。

　弥生は、これ以前の03年に米インテュイットから投資ファンドの協力でMBO（経営陣による企業買収）を行った。当時から「IPOは悲願」（飼沼社長）だったという。だが結局は、ファンド側の意向などが影響したようで、旧ライブドアへの株式譲渡を選択することとなった。「ソフト、インターネット、ネットワーク、ファイナンスの各事業で共通分野が多い」とシナジー効果を期待したものの、志半ばで、ライブドアHDから離れる。

　旧ライブドアへの譲渡から1年後の05年10月、同社との協業第一弾として事業経営者向け融資サービス「弥生の経営者応援ローン」を弥生製品のサポート会員向けに提供を始めた。「これから相乗効果が出る」と思った矢先の翌年1月、あの「ライブドア事件」が起きてしまう。

　旧ライブドア傘下の間、世間を賑わしていた“ホリエモン”こと堀江貴文・旧ライブドア前社長の人気にあやかり、家電量販店に配置した「弥生シリーズ」の看板にも同氏の写真を掲載した。この効果は絶大で、当時、業務ソフトの認知度で1位だったオービックビジネスコンサルタント（OBC）の「奉行シリーズ」を抜きトップに躍り出たほど、弥生に勢いをもたらした。それだけに、報道各紙が弥生のライブドアHD離脱は「旧ライブドアとの相乗効果が小さかったのが要因」と結論づけるのは早計だろう。

　「ライブドア事件」でイメージ低下が否めない状況下にありながら、弥生は順調に成長を続けた。06年9月期は売上高約87億円、営業利益約37億円、営業利益率42％という高収益体質を維持。同じ業務ソフト業界の競合他社で東証1部上場のOBCは、07年3月期の売上高が約170億円、営業利益が約64億円、営業利益率が約38％で、時価総額が1335億円（8月現在）にのぼる。親会社に好業績を続けるオービックの存在があり、弥生と市場領域や業態が若干異なるとはいえ、この水準と比較しても弥生がIPOで、市場からOBCと同程度の評価を得ることは可能であろう。

　弥生の飼沼社長は、昨年11月に本紙の取材に応え、「『税務ソフト』をやりたい」と、従来の「販売・財務・給与」に加え、新規分野進出を模索していることを示した。「弥生シリーズ」のユーザーインターフェイスは「業界標準」として高評価を得ている。市場から資金調達し、新規事業に取り組み成功を遂げ、株価上昇をもたらせば、数年程度で今回の売却額を株価益で相殺（＋アルファ）できると目算するのは、あながち稚拙な考えでもなかろう。