SIerのビジネスに影響も

　SaaS（ソフトウェアのサービス化）専業ベンダーのシェア争いが激しさを増している。先行するセールスフォース・ドットコムをネットスイートが猛追する基本構図に変わりないものの、両社の戦略は互いをより強く意識するものになってきた。前者は大規模ユーザーを意識した展開なのに対し、後者は中小企業に焦点を当てる。だが、大手SIerを巻き込んでの積極的な代理販売施策は両社ともに共通する。成長著しいこうしたSaaS専業ベンダーとどう組んでいくのか。SIerの判断が求められている。

セールスフォース・ドットコム
日立ソフトと郵政攻略
「問い合わせシステム」納入

　セールスフォース・ドットコム（宇陀栄次社長）は、日立ソフトウェアエンジニアリングと組んで、日本郵政公社にSaaS型オンデマンドサービスを納入した。およそ4万ユーザーが使う大規模案件で、19か月のライセンスと保守料金、開発費用を含む納入価格は6億円を超える。8月までに準備を終え、9月から順次稼働しているという。

　日本郵政公社を巡っては、NTTデータが郵便局のCRM（顧客情報管理）やSFA（営業支援）を含むシステムを納入しており、今年10月から本格運用を開始する。セールスフォースは大手SIerとそれぞれ組むことで、超巨大企業である郵政公社を攻略する構えだ。

　今回、日立ソフトが納入したのは、郵政公社の顧客向けに提供する“問い合わせ”システム。顧客からの問い合わせ内容や対応履歴を集計分析するもので、郵便局をはじめとする各事業会社が利用する。セールスフォースのプラットフォームに採用することで“問い合わせ”にかかる開発工数を大幅に削減しているのが特徴だ。

　従来はセールスフォースの主力アプリケーションであるCRM、SFAに対する引き合いが強かったが、「このところ当社のSaaS型プラットフォームを利用したいという要望が目立ち始めている」（宇陀社長）という。日立ソフトでは、独自のSaaS型アプリケーションを開発しており、「当社独自のサービスとセールスフォースのプラットフォームの連携を加速させる」（産業システム事業部の植村明事業部長）ことで付加価値の増大に力を入れる。

　大型案件が相次いで決まったことにより、セールスフォースの拡販に弾みがつくとみられる。

ネットスイート
中堅中小に焦点絞る
SIerとの連携を積極化

　ネットスイート（東貴彦会長）は、中堅中小企業により焦点を当てたビジネスを展開する。9月に行ったメジャーバージョンアップでは、ユーザー自身が簡単にシステムを導入できる支援機能を大幅に拡充。市販のパッケージソフトをインストールする感覚でサービスを利用できるようにした。

　競合のセールスフォース・ドットコムが大規模ユーザーを意識したビジネス展開であるのに対して、中小ユーザーに特化することで差別化を図る考えだ。SIerは大手向けはセールスフォース、中堅中小はネットスイートなどと売り分けることも考えられる。

　CRM、SFAを中心とするセールスフォースに比べて、ネットスイートは財務会計やネット通販システムなどCRM以外にも有力アプリケーションを揃えている。「中堅中小企業の業務をトータルにカバーする」（東会長）ことで有利にビジネスを進めるのが狙い。

　昨年4月の日本法人設立から約1年半でユーザー企業数を数十社に増やした。販売パートナーについてはSaaSビジネスの強化を目指すSIerからの引き合いが増加。トランスコスモスやミロク情報サービスなど既存のパートナー企業とともに新規パートナーを開拓していくことで販売網の拡充を急ぐ。

　自社プラットフォームに対応した統合開発環境も提供しており、SIerとともに業種業務への対応を進める。ネットスイートは統合基幹業務サービスであるものの、生産管理や人事給与など不足するアプリケーションも少なくない。特定の業種業務に強いSIerと組むことでサービス内容を充実させる。SIerはサービスインテグレーションを行うことで、「自身のビジネスの拡大を図れる」（松島努社長）と、パートナーになるメリットを強調する。