MVNOがメリット享受できる事業者は？

微妙に異なる各社のビジネスモデル

　2.5GHz広帯域移動無線アクセスシステム事業の着手に向け、WiMAX企画会社を中心とした3つの陣営が特定基地局開設計画の認定申請を総務省に対して提出した。各社とも自社のビジネスモデルを踏まえて免許取得に絶対の自信をみせているが、SIerやISVなどベンダーが新しいビジネスモデルの構築に向けてMVNO（仮想移動体サービス事業者）として設備を借りる可能性もある場合、果たしてメリットのある事業者はどこなのか。（佐相彰彦●取材／文）

■総務省の条件をクリア　利益見通しも計画に盛り込む

　総務省では、2.5GHz帯周波数を付与するにあたっての絶対条件として「認定から3年以内のサービス開始」「5年以内に人口カバー率50％以上」「MVNOへの無線設備開放」を掲げている。2.5GHz帯を活用したサービスを早期に実現し、この周波数が広く活用される環境を作るためだ。通信事業者の出資を中心として設立されたWiMAX企画会社は、この3項目をクリアする事業計画を立てて認定申請を提出した。

　各企画会社の具体的な事業計画はこうだ。

　アッカ・ネットワークス率いるアッカ・ワイヤレスは、サービス開始が2009年3月から。人口カバー率は、09年で首都圏を中心に約30％、10年には全国7大都市を中心に約50％を網羅する。その後、全国に展開し13年には約70％をカバーする計画だ。加入者数は、09年で25万人、13年で500万人を見込む。売上高については09年で60億円、13年で1500億円の見通し。12年には黒字化を達成。15年までは累計2000億円を設備投資に充てる方針だ。

　イー・アクセスグループとソフトバンクグループの提携で設立となったオープンワイヤレスネットワークは、サービス開始がアッカ・ワイヤレスと同様に09年3月で無線データ通信から提供する。エリア展開は、09年度（10年3月期）中に人口カバー率を50％以上、15年3月末までに90％以上まで引き上げる。加入者については、PCユーザーを中心に約400万人の見通し。営業利益は、サービス開始から3年後に黒字化を目指している。

　KDDIを中心としたワイヤレスブロードバンド企画は、認定申請した具体的な事業計画について明らかにしていないが、「総務省が掲げる条件はクリアしている」（田中孝司社長＝KDDI取締役執行役員常務）ことは間違いないだろう。

■無線設備開放がポイント　ISPの出資参加をアピール

　総務省が掲げる条件のなかで最も注目を集めているのは、「MVNOへの無線設備開放」だ。というのも、WiMAX企画会社だけでは事業が完結しないからだ。サービス開始時期や人口カバー率については、サービスインに向けた準備や設備投資などをWiMAX企画会社が進めれば計画通りに実現できる。しかし、無線設備の開放については、それを利用してビジネスを展開する相手があってのこと。したがって、いかにMVNOを集めることができるかがポイントとなる。

　そこで、WiMAX企画会社は通信事業者ではない企業がどれだけ出資したかをアピールすることになる。アッカ・ワイヤレスでは、NTTドコモと提携したこと含め、東京放送など放送業界、京浜急行電鉄など鉄道会社、NECビッグローブなどISP、商社、証券会社など16社が出資。木村正治社長（アッカ・ネットワークス社長）は、「モバイルビジネスへの新しいチャレンジャーであるアッカ・ネットワークスと、国内最大の携帯電話事業者であるNTTドコモが組んだという点で、パートナーとしても多彩なビジネスを手がけることが可能だ」としている。

　オープンワイヤレスネットワークには、イー・アクセスやソフトバンクをはじめ、ISPを中心に8社が出資。深田浩仁社長（イー・アクセス執行役員副社長）は、「すでに提携実績のあるISPを中心にホールセールが展開できる」と自信をみせる。

　ワイヤレスブロードバンド企画は、KDDIを中心に、インテルや東日本旅客鉄道、京セラ、証券会社など6社。田中社長は、「当社のコンセプトに、さまざまな業界から賛同してくれたということ」と力説する。

■オープン性の強調は共通　ICTベンダーとの協業がカギか

　では、MVNOにとってメリットがある事業者はどこなのか。各社ともオープン性を強調しているだけに難しいところだ。

　しかし、WiMAXのMVNOとして対象になっているのは、出資する傾向が高かったISPだけではない。ISVやSIer、ハードメーカーなどのベンダーも含まれている。となれば、ベンダーとともにWiMAXベースの新しい製品・サービスを創出できる事業者が免許を取得することが重要なのではないだろうか。

　そういった点では、オープンワイヤレスネットワークをはじめとしたイー・アクセスとソフトバンクの陣営が最有力候補といえそうだ。

　その理由は──。アッカ・ネットワークスは地方とのデジタルデバイドの解消、KDDIは3G携帯との親和性など、他の陣営が人口カバー率やサービスの早急な実現を中心に掲げていた当初、イー・アクセス／ソフトバンク陣営はベンダーとのパートナーシップによるオープンモデルを前面に押し出して、WiMAX事業の着手に向けた免許取得を宣言していた。しかも、ソフトバンクグループでは、ソフトバンクBBによるICT（情報通信技術）関連製品の流通事業の機能もあるため、ほかの事業者と比べてメーカーやSIerなどとパートナーシップをうまく築くことができているといえそうだ。加えて、「通信業界において全くしがらみがない」（オープンワイヤレスネットワークの深田社長）という点もポイントだ。

　総務省では、近く免許を付与する予定だ。どういった結果になるかは蓋を開けてみなければ分からないが、MVNOにとって大きなメリットをもたらす事業者の免許付与が、ICT業界を大きく変えることは間違いない。