ISPがSaaS／ASP事業に乗り出す

　インターネットサービスプロバイダ（ISP）がSaaS／ASP事業に乗り出した。ISP大手のNECビッグローブがソフト開発のアドビシステムズと組んで、文書管理サービスを12月から始める。競合のニフティも複数のセキュリティベンダーと組んでオンラインセキュリティサービスを構築してきた実績があり、今後は「法人向けでも動き出す」という。

　ISPは強力なネットワーク基盤を構築し、膨大な数の個人・法人顧客を管理する能力を持っている。SaaS型サービスの提供環境はすでに整っており、ビジネスモデル次第で有力プレーヤーに化ける可能性が出てきた。

　NECビッグローブが今回始めるSaaS型サービスは、閲覧条件を細かく設定できる電子文書管理サービスである。文書の変更やコピー、印刷など可否といったポリシーを設定することで閲覧者の権限に準じて制御できる。例えば、社内では変更やコピーは可能だが、協力会社などは閲覧のみにするなどの設定が可能。権限がないと閲覧すらできない。文書を配布した後からでも閲覧条件を変更したり、文書の改版をオンラインで通知し、最新の情報を共有することもできる。

　ベースとなる仕組みはアドビの主力商材のひとつの文書フォーマット「PDF」と権限管理パッケージソフトを採用。これにNECビッグローブがユーザーインターフェースや、顧客先の既存システムとつなぐアプリケーションインターフェースを別途開発する。アドビからみれば、NECビッグローブが開拓する法人顧客に自社製品を売り込む新たな有力販売チャネルを得たことになる。アドビのギャレット・イルグ社長は、「最適なパートナーを得た」と自賛する。

　NECビッグローブでは今後、他の業務アプリケーションも「SaaS型での提供を検討」（NECビッグローブの飯塚久夫社長）しており、本格的な品揃えの拡充を示唆する。これまでISPの主戦場だった個人向けのインターネット接続サービス市場はすでに成熟。今後、拡大が見込まれる法人向けのSaaS型業務アプリケーションサービスに成長の活路を見いだす。

　NEC本体もSaaS事業の立ち上げを模索しており、「本体と連携しながら、役割分担を決めていく」という。一方、富士通グループの富士通中部システムズは、11月からグループの先陣を切ってSaaS型のCRM（顧客情報管理）サービスを始めた。富士通グループのニフティも法人向けのサービスを拡充していく方針を示している。親会社のNEC、富士通がSaaS事業に積極的な姿勢をみせるなか、系列ISPの動きが活発化していくことも十分に考えられる。

　通信事業者（キャリア）も、自社のネットワーク基盤の付加価値を高める手段としてSaaSに関心を高めており、キャリア系ISPとの競合も予想される。自社でSaaS提供に必要なネットワークインフラを持たないソフト開発ベンダーは、キャリアやISPと組むことで初期コストを抑え、迅速にSaaSビジネスを立ち上げられるメリットがある。NECビッグローブとアドビのように、従来は接点が少なかったベンダー同士が組むケースがさらに増えるものとみられる。