未知領域への「警戒心」を解け

　2007年は、SaaSが普及・定着した年と位置づけられる。SaaSが金を生む時代にいよいよ入ってきたと感じるからだ。IT業界は、流行語が登場すると「概念が先走り、相当の後にビジネスに結びつく」のが通例。言葉がどんなに知れ渡っても、実態が見えにくい。SaaSに関しても同様だったと思う。ただ、今年はビジネスにつながったケースが多く出てきた。日本郵政公社が、約4200局にSaaSの先駆者セールスフォース・ドットコムの顧客情報管理サービスを導入した事例がその代表だろう。受注したのは国内SIer最大手のNTTデータで、同社もこの事例を宣伝し、SaaS時代の幕開けを印象づけた。

　SIerやソフトメーカーは、その動向を本格的に意識し始めた。ただ、「大歓迎」とは言い切れず、多少の警戒心を抱いている。

　SaaSの概念である「ソフトやコンピュータの演算能力をネットワーク経由で利用し、使った分だけ金を払う環境」にすべて変われば、ソフトを開発してハードと組み合わせて納品し、その後の運用・保守も請け負うという一般的なSIのビジネスモデルは間違いなく縮小する。極端にいえば、エンドユーザーにハードを売る場面はなくなり、ソフトのカスタマイズ開発できる場所も存在しない。システムをユーザーの要望に合わせて開発して稼ぐスタイルから、月額・年額で売り上げを立てる形に変わる。

　米マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOは、パートナー向けイベントでITリソースのサービス化が加速することを強調。「ユーザーは10年後も自前で情報システムを持つのだろうか。恐らく持たないだろう。（その時代に備えて）パートナーもマイクロソフトも変わらなければならない」とビジネスモデルの変革を促すようなコメントを口にした。

　SIerやソフトベンダーにとっては、既存の事業モデルが壊れるとなれば、SaaSの普及を注視せざるを得ない。製造・流通業に強い中堅SIer、大興電子通信の高橋正道社長は、「ユーザー次第だが、SaaSは一過性とは考えにくく、主流になる可能性がある。SIerも変化しなけれならない。需要の高まりに乗り遅れれば、厳しい局面に直面するはずだ」とし、準備を進めていることを強調する。

　特定業種向けERPを開発し、パッケージとしては売らずに10年ほど前から月額・年額課金サービスとして販売するオープンソフトウェアの光田一徳・メディアネットワークリーダーは、「パッケージ製品を売りたいからなのか、ユーザーに対してASPやSaaSを事実とは違う形で批判するソフトベンダーがいる。ユーザーに誤解を与えかねない」と嘆く。警戒するあまり、SaaSを拒もうとする動きもあるようだ。

　すべてのユーザーやアプリケーションがSaaSで提供されることはありえない。そして、「主流になるとしても時期は5─10年先」（富士通エフ・アイ・ピーの伊与田悠社長）だろう。

　ただ、SaaSの技術を蓄えて体制を整備し、ビジネスモデルを変えなければ、成長どころか維持も難しくなる時代がいつかくるかもしれない。5─10年先を見た戦略立案をSaaSが迫り始めている。