JUASの定例調査で浮き彫りに

　「ユーザー企業のIT投資額は余っている」──。

　情報システムのユーザー企業を会員とする日本情報システム・ユーザー協会（JUAS）が実施した調査「企業IT動向調査2008」で、こんな実態が浮き彫りになった。ユーザー企業はIT投資額を確保しているものの、そのお金を戦略的に利用できていないというのだ。

　「企業IT動向調査2008」は、JUASがユーザー企業のIT投資や利用状況を把握することを目的に毎年実施している定例調査。14回目となる今回は、2007年10月から08年2月までアンケートとインタビュー形式で行い、IT部門634社および利用部門683社から有効回答を得た。回答企業の規模は、従業員1000人未満が約3分の2で、同1000人以上が約3分の1を占める。

　調査によると、日本のIT投資額全体は3年連続で増加傾向で、好調に推移している。06年度に比べて07年度にIT予算を増加させたユーザー企業は全体の61％を占める。原田俊彦常務理事は、「07年度は2000年代に入ってから最もIT投資額が大きく、歴史的な年になるだろう」と、予想を超える投資実績に驚きを隠さない。大手都市銀行の合併案件などで金融機関の旺盛なIT投資が市場全体を引っ張った格好だが、「各業種、業績に関係なくIT投資額が増加傾向で、減収減益の企業でもIT投資は増えている」（原田常務理事）傾向にある。

　変化は金額の増加だけではない。投資額の内訳も変わってきている。IT投資を既存システムの「運用保守」と「新規投資」に分けると、新規投資の比率が如実に増えている。新規投資の比率は、05年度が32％だったのに対し、07年度は43％にアップすると推測。〝守り〟の投資ではなく、業務効率化や業績向上のための〝攻め〟の投資を図れる環境に変わってきたことを物語っている。

　しかし、冒頭に述べたように、ユーザー企業はこの新規IT投資を有効に使うことができていない状況も浮き彫りになっている。

　JUASは今回、「新規投資の予算執行率」という質問を、初めて調査項目に加えた。この結果によると、運用保守分野の予算執行率は98％でほぼ計画通りなのに対し、新規投資額の執行率は89％。IT投資予算を10％以上も余している。売上高100億円未満のユーザー企業だけでみれば、「新規投資予算のうち50％が未利用」と答えた企業が4％も存在する。「カネはあるけど、投資先がない、分からない」というわけだ。

　同調査では、「IT部門がビジネスイノベーション（経営革新）に貢献する部門として期待されている」という認識を約半数の企業が持っていることが分かった。経営幹部から期待をかけられ、予算もあるのに、戦略的なIT施策を手がけられていないのだ。

　新規投資分野は運用保守に比べて既存ベンダーとの付き合いなど〝しがらみ〟が少なく、新規ベンダーも受け入れやすく、提案次第で受け入れられる可能性が高い。ITベンダーにとっては、この環境は新規顧客を開拓する絶好のビジネスチャンスとなるはずだ。