「個人向け」が「法人向け」になる日

　個人向けのIT製品が企業でも使われるようになるという〝ITコンシュマライゼーション〟の潮流が顕著になってきている。

　ITコンシュマライゼーションという言葉は、基本的にウェブサービスの活発化につれて登場したとみられる。例えば、グーグル。主力の「Google検索」をはじめ、地図検索の「Googleマップ」、動画配信が可能な「YouTube」など、どれも個人的な情報収集や娯楽で利用するために提供しているサービスだ。グーグルだけではない。IP電話サービス「Skype」は友人とのコミュニケーション活発化に向けたツール。それを企業業務で使うことが多くなっている。取引先の情報収集で検索を使ったり、所在地を調べるために地図検索を活用。出張先では、とくに海外で会社への連絡手段としてSkypeを使うことがあるはず。ITコンシュマライゼーションの動きは、確実に押し寄せてきているわけだ。

　ウェブサービスだけでなくハードウェアにも波がきている。最近では、アップルの携帯オーディオプレイヤー「iPod」に採用された「ポッドキャスティング」を企業が業務で使うケースもあるようだ。さらに、固定電話のIP化も徐々にではあるが企業への導入が進んでいる。あまりに日常的すぎてぴんとこないかもしれないが、PCは「パーソナルコンピュータ」の略、もともとは個人利用を前提に開発されたものだ。しかし、今では業務利用が当たり前になっている。

　ベンダーのビジネス領域拡大の視点に立てば、個人向けのサービスや製品を法人向けにも提供できる環境下にあることになる。すでにグーグルやSkypeは法人向けサービス提供に動き始めている。PCメーカーも、力の入れ具合に差があるものの、法人向けPC事業を手がけている。IP電話関連でいえば、「UC（ユニファイド・コミュニーケション）」を切り口に業務アプリケーションとの連携ソリューション提供が増えつつあるほか、携帯端末のスマートフォンをベースとした「モバイルセントレックス」で企業への導入を促すベンダーも出てきている。

　家電量販店やパソコン専門店などショップで扱う商材を企業に提供するといった動きも出てくる。実際、家電量販店やパソコン専門店の多くは法人向け事業の販売部隊を設置しており、強化を図ることに余念がない。パソコン専門店のソフマップでは、ネットショップ「sofmap.com」の運営ノウハウを生かし、SOHOやSMBを中心に法人へのシステム提案を行っている。また、個人向け製品が中心のメーカーサイドでも法人への提供に適用できるとの判断で法人向け事業部の拡充を進めている。無線LANやストレージを販売するバッファローやアイ・オー・データ機器などがその代表例だ。卸のディストリビュータからは、「SOHOのオフィス移転に伴い、個人向け無線LANを導入するニーズが高まっている」との声が聞かれる。

　こうした状況を踏まえると、現段階では分けられている「個人向け」「法人向け」といった境目が、将来的にはなくなる可能性を秘めている。これから生き残るのは、双方に分け隔てなく提供できるノウハウをもつベンダーだといえよう。