プラットフォーム構築へ

来年度プロジェクト立ち上げ

　経済産業省は、「中小企業向けEDIプラットフォーム」（仮称）プロジェクトを来年度から開始する。大企業では効率的なEDI（電子データ交換）の構築が進むが、中小企業では十分活用できていない課題がある。同プロジェクトは大企業と中小企業を結ぶプラットフォームを新たに構築することで、中小企業EDIの問題を解決する構想だ。プラットフォーム運営を担うSIerなどITベンダーは、ビジネスモデルをどう設計するかの力量が試される。（安藤章司●取材／文）

■中小企業への浸透がカギ

　今回のプロジェクトは来年度から3か年の計画で、大企業と中小企業の取引データがスムーズに交換できるように、データを変換するミドルウェアプラットフォームの構築を目指すものだ。これまでもVAN事業者などがデータ変換サービスを手がけてきたが、主に旧式EDIと新式EDIを変換するなど用途が限られていた。「中小企業向けEDIプラットフォーム」では、大企業の系列や業界の垣根を越えて汎用的なデータ交換が行える基盤をつくる。

　経産省のEDI事業を巡っては、小売・流通業界でXMLをベースとした次世代EDI「流通ビジネスメッセージ標準（流通BMS）」を立ち上げた実績を持つ。1980年代から使われてきた古いJCA手順などの方式から、オープンで国際標準の技術を使うことでサプライチェーン全体の効率アップを狙うものだ。イオングループやダイエー、ユニーなど大手小売業や卸売業、メーカーがプロジェクトに参加し、今年度下期から来年度にかけて本格的な立ち上がりが期待されている。

　しかし、課題も残した。有力ユーザーが中心となって規格化を推進したことで新しいEDI標準としての地位を確立しつつあるものの、一方で中小企業への普及は遅れがち。大手食品卸の情報システム部幹部は、「中小企業に浸透するかどうかが、流通BMS事業の成否を決める」と、成功のカギは中小企業にあると指摘する。

　そこで打ち出すのが、「中小企業向けEDIプラットフォーム」である。大企業のEDIデータをITベンダーなどが運営するEDIプラットフォームで変換し、中小企業の業務システムへ受け渡す仕組みを構築。こうすることで、EDI規格の差異を吸収し、中小企業をEDIネットワークのなかに取り込むことを目指す。経産省の伊藤慎介・情報経済課課長補佐は、「大企業と中小企業を直接EDIで結ぼうとするところに無理がある」と、ミドルウェアサービスを間に噛ませることで、中小企業のEDIを活用した業務効率化を推進する。

■自動車と電機をモデルに

　具体的には、EDIコードや情報項目、CSVやXML、HTMLなどデータ形式を、中小企業でよく使用される販売管理など基幹業務システムが読み取れるフォーマットに変換する。プラットフォームには、変換に必要な“共通辞書”を備え、変換システムはこの辞書をベースにEDIデータを変換する構造だ。例えば、大塚商会やオービックビジネスコンサルタント（OBC）、PCAなど、中堅・中小企業に強いERP（統合基幹業務システム）製品を持つベンダーと連携することで、EDIプラットフォームとのデータ交換を円滑に進められる。

　企業規模の違いだけでなく、異なる業界を結びつけたり、グローバル規模でEDI網を構築するなど、従来型のEDIでは困難だった課題にも取り組む。

　モデルケースとして候補に挙がるのが、自動車と電機電子の業界である。自動車業界は産業のすそ野が広く、中小企業の数も多い。かつ、ハイブリッドカーに代表されるように自動車のIT化は急速に進んでいることから電機電子業界との連携は欠かせない。両業界ともにグローバル展開を積極的に進めており、国際的でオープンなEDIネットワークを構築する必要に迫られていることが背景にある。

　自動車メーカーと直接取引をする大手部品メーカーとの間は、すでに完成度の高いEDIが構築されている。このため今回は年商20－50億円で、従業員数が100人以上、情報システム専任者が1－2人の中小部品メーカーをメインターゲットとする。電機電子業界も同様に中小企業を主な対象に位置づける。

■グローバルEDIの構築狙え

　ここで問題になるのは、「中小企業向けEDIプラットフォーム」をどうビジネスに結びつけるかにある。プラットフォームはXMLなどオープンな技術を使う予定で、「特定ベンダーに依存する技術は採用しない」（伊藤課長補佐）方針。技術仕様は基本的にオープンであり、プラットフォームベンダーによる“囲い込み”は成り立たない。先行する流通BMSにおいても、オープン仕様であるため「流通BMSのツール単体での収益は限られる」（SIer幹部）のが実情。ITベンダーは、流通BMSをきっかけとした基幹業務システムの刷新需要の高まりに希望をつなぐ状況である。

　プラットフォームの構築では、ITベンダーやユーザーなど当事者による先行投資が不可欠。ITベンダーにとってみれば、中小企業向けEDI構築の先にあるビジネスモデルが十分に描けない限り、思い切った投資には踏み出しにくい。どういった収益モデルを構築するのか、さらに詰める必要がある。

　大手SIerは事業拡大に向けて海外進出を本格化させている。今回のプラットフォームは国内の中小企業だけでなく、自動車や電機電子の生産拠点が密集するアジア地域の中小企業も巻き込んだグローバルなEDIに発展する可能性がある。データ変換の技術革新もさることながら、国際的な視野でビジネスモデルをどう設計するかが次世代のEDIに強く求められる要素になりそうだ。