給与所得中心でも投資可能に

　エンジェル税制（ベンチャー企業投資促進税制）が5月に改正された。今年4月1日以降の投資契約から適用対象になる。エンジェル税制は、日本では10年ほど前に立ち上がった。ベンチャー企業に投資するエンジェル（個人投資家）を対象に税制の優遇措置を講じる制度だ。

　従来の制度には、（1）ベンチャーへの投資額をその年の他の公開株の譲渡益から控除する投資時点での優遇措置、（2）投資した株式を売却した際に利益が出たら、譲渡益を2分の1に圧縮して課税、（3）逆に損失が出た場合は翌年以降3年間の繰越控除ができる──という株式売却時点での税優遇措置があった。

　しかし、これだと「そもそも他の株式の譲渡益を得ていない人は優遇措置を使えないし、株で損失を出している人も使えない」（経済産業省経済産業政策局の吾郷進平・新規産業室長）。税制利用額は、ピーク時の平成17年度では約25億円程度、平成19年度になるとぐっと落ち込んで4億円程度になってしまっていた。実際には、知人など身の周りの人に対して投資しているケースもあり、国内での投資額はもっと多いだろうと吾郷室長はコメントするが、海外をみると、米国のエンジェルの数は2006年に23万4000人、年間投資額が256億ドル（約3兆円）。英国でも03年時点で1万8000人のエンジェルがおり、投資額は5億ポンド（約950億円）にのぼるそうだ。

　日本の投資が落ち込んだ背景にはさまざまな「事件」が絡んでいるという。「NHKスペシャルでヤクザマネーという番組が放送されたのですが、反社会的勢力が新興企業に投資することでその儲けが資金源になっているという問題なども明るみに出て、IPO（株式公開）がより厳格になってしまった」（吾郷室長）。上場したら高値で売って次の投資先に投資するというサイクルが回らなくなり、それにつれて投資状況も落ちていった。昨年まで「上場できない」と悩んでいたベンチャー企業経営者も「もう、上場しなくてもいい」になってしまったという。

　エンジェル税制自体の問題点は、民間団体の日本エンジェルズ・フォーラムが発足したころから指摘されていた。経済同友会でも起業家をもっと増やさなければいけないと訴えていた。

　改正されたエンジェル税制では、投資時に新たな優遇措置が設けられた。従来の方法に加えて、総所得金額x40％、もしくは1000万円のいずれか低いほうの金額を上限とし、投資額から5000円差し引いた金額をその年の総所得金額から控除する方法だ。これで株式譲渡益がなく給与所得中心のサラリーマンでもエンジェルとして投資ができるようになった。

　経産省では、初年度はまず税理士などに税制の知識を行き渡らせ、ゆくゆくは利用者数を3ケタから4ケタには伸ばしたいと展望を話す。「いま、地方経済の元気がない。金額は大きくないが、地域の活性化にも役立つのでは」ともみている。

　「経済成長の要はイノベーションだ」とインキュベーション（ベンチャー育成）を手がける企業の経営者は言う。イノベーションを起こしやすい土壌を整えることも大切だ。新税制がその手助けになることを期待したい。