提案方法“手中”の販社が果実得る

　ITセキュリティの投資に制約のある中堅・中小企業（SMB）向けを中心にUTM（統合脅威管理）製品の導入が加速している。ユーザー企業の多くは、ファイアウォール／VPN製品を、リース切れなどを機に管理者負担の少ないUTMに置き換える傾向が強まっている。そうした状況下、これまでファイアウォールなどのセキュリティ製品を拡販してきた販売会社の多くは、UTMを中心にしたシステム提案を重視し始めている。国内ではここ1－2年で急速に市場形成された分野だが、特に新しい概念を示す言葉ではない。しかし、製品には各々UTMメーカーによって得意分野が異なるため、個々の「クセ」を把握して売っていく必要がありそうだ。

　UTMアプライアンス製品の国内市場は、矢野経済研究所によると2006年の出荷額が約50億5000万円で前年比62.5％も伸びている。国内UTM市場について、総合ITセキュリティベンダーのインスパイアー（08年10月に旧フォーバルクリエーティブから社名変更）は、「ここ1－2年で市場が伸びた」（田中大介・営業部マネージャ）とみており、UTMが国内に急激に浸透した感触を得ている。従来のファイアウォール／VPNの国内市場が微増で推移する一方、それらのリース切れや旧製品の販売終了を機にUTMへ置き換えるユーザー企業が増えている状況にあるようだ。

　セキュリティ対策は、外部脅威対策にはじまり、個人情報保護やコンプライアンスなど、総合的な対策が必須だ。しかし、中小企業ではIT投資力に乏しい。そうした背景から、運用管理が容易で安価に導入できるUTMが注目を集めている。世界的なUTMメーカーであるフォーティネットやチェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズなどの製品を販売するインスパイアーでは、基本的に従業員50人以下の中小企業やSOHOを対象にUTM導入を提案している。とはいえ、「大企業にUTMが入っていないかというとそうではない」（田中マネージャ）のも現状。UTMに搭載されているアンチウイルスやIPS（不正侵入検知）などを専用機ベースで別々に導入すると、ライセンス体系が複雑で更新コストが高い。このため、大企業でも「ライセンスが安価で分かりやすい」ことを理由として導入が進んでいるのだという。

　丸紅情報システムズの作間健司・プラットフォーム＆ネットワーク事業本部 NSソリューション部 プロダクト＆マーケティング課課長は「ボックス（専用機）が企業内に少ないほど障害率も少ないという点で、UTMには長所がある」と話す。

　だが、急激に市場形成された製品だけにUTMの“弱点”も浮き彫りになっている。セキュリティ専用機に比べ、「スループットが遅い」ことや「ハードウェアが故障するとすべての機能が使えなくなる」といった声が販売会社から聞かれるのだ。故障すれば機能別に切り分けることが難しく、リスク分散に適していないことなどの課題も浮き彫りになっている。このためオプションをつけずにファイアウォール／VPNのまま導入する場合とアンチウイルスなどに機能を限定して導入するなど、「大半のユーザーが、UTM本来の機能を使いこなしていない」（丸紅情報システムズの作間課長）と実情を語る。

　UTMメーカーは、ハイエンドからローエンドまでラインアップしている。そのなかでソニックウォール製品を扱う丸紅情報システムズは、UTMを従業員数100人から1000人未満のミドルクラスに重心を置いて拡販している。性能を考慮すると、UTM本来の機能をフルに活用できる層はこの領域と見ているためだ。「スループットを求めると、機器もそれなりのものが必要になるため場合によっては高くつく可能性も」（インスパイアーの小山慎司・営業部 マネージャ）という指摘もある。

　UTMメーカーは弱点をつぶすため、ハードの機能面などを継続して改善している。最近ではマルチコアで分散処理することで、スループットを大幅に向上させる製品も登場。さらに、拡張性を高めた新しい統合脅威管理製品として「XTM」が今後伸びると調査会社も予測している。UTMメーカーはそれぞれ得意・不得意をもっているので、販売会社はユーザー企業の実状に応じた製品提案を行っていく必要がある。