大手パッケージソフトメーカーのジャストシステム(福良伴昭社長)の業績が回復しつつある。中間期(2009年4~9月期)は、売上高こそ期首見通しに達しなかったものの、利益は見込みを上回り、赤字幅が縮小した。通期では5期ぶりの黒字を目指す。海外進出に失敗し、昨年度までの4年間で100億円近い純損失を出したジャストシステム。創業者が10月に辞任し、新しい経営体制の下で事業の再構築を急ピッチで進める。しかし、ソフトビジネスは“オンリーワン”にならなければ生き残れない。次の成長戦略が見えない課題は依然として残ったままだ。
ソフトビジネスは、特定分野でトップの地位を占める“オンリーワン”ベンダーに集約される傾向が極めて強い。ジャストシステムは日本語変換ソフト「ATOK」で、長年にわたって不動のポジションを築いてきた。ただ、同社前会長で創業者の浮川和宣氏は、この“日本語の壁”に成長の限界を感じたのだろう。言語を問わない文書処理能力に優れ、ネットとの親和性も高いXML技術に着目。XMLアプリケーション開発・実行環境「xfy(エクスファイ)」を2005年に開発し、世界進出を本格化した。これが4期連続で赤字を出した主たる原因になる。

浮川和宣前会長
ソフトとインターネットが融合し、クラウド/SaaSが幅を利かせる現在、ソフトビジネスは限りなくネットビジネスに近づく。ネットの世界では、トップを独走しなければビジネスが縮小均衡に陥るという“経験則”がある。浮川氏は早くからこの特性を感じ取って、「xfy」での海外進出に突き進んだ。当時、浮川氏の右腕として海外ビジネスの陣頭指揮を執った同社元執行役員の田上一巳氏は、「開発した成果物と市場のニーズとが合わない部分を修正しきれなかった」と、後日明かしている。赤字に陥ってでもトップダウンで先行投資を行い、開発や海外展開を強力に推進したまではよかったが、側近の諫言やマーケットニーズに基づく軌道修正が十分にできなかった。
日本発のソフトで世界に進出し、成長を持続させる浮川氏の方向性は決して間違ってはいない。今、クラウド/SaaSを支える基盤として需要が急拡大しているサーバー仮想化ソフト分野においても、先行してシェアを握ったヴイエムウェアが優位に立ち、2番手、3番手は低価格での優位性を訴えざる得ない。インターネットブラウザやオーディオプレーヤーソフトは実質的に無償で配布される。お金を支払ってでも手に入れたいとユーザーに思わせるオンリーワンの製品が、ジャストシステムはATOKやワープロソフトの一太郎関連に集中しすぎる傾向があり、こうした日本語処理の需要はシュリンクする国内市場に限られてしまう。この壁をどう打ち壊せるかが新生ジャストシステムに強く求められている。(安藤章司)