富士ゼロックス(山本忠人社長)は、販社などのニーズを反映して、まったく新しく開発し、2009年12月中旬に発売したA3カラー小型デジタル複合機(MFP)の新製品を引っ提げ、中・小規模企業向けの毎分11~20枚市場で国内シェア1位を狙う。同社は、大手・超大手市場で高いシェアを獲得している。だが、中小領域ではとリコーとキヤノンの後塵を拝しているのが実状だ。直系販社だけでなく、既存特約店の営業展開を活性化し、新製品だけで年間4万台の販売台数を目指す。上位2社にどこまで迫れるかが要注目だ。
リコー、キヤノンに迫る
省スペース、モノクロ代替へ 新発売した小型MFP「DocuCentre-IV C2260」(カラー、モノクロとも20枚/分)は、コピー、プリント、FAX、スキャンの基本機能を1台に搭載。同社の従来機に比べて、機械の占有面積をモノクロ機で約10%、カラー機で約20%省スペース化した。待機時はファン完全停止の超静音設計、パネルをTFT(薄膜トランジスタ)にして簡単操作にするなど、新機能を搭載しMFPで業界最小サイズを実現した複合機だ。
競合のリコー、キヤノンに遅れをとる中・小規模の企業向け市場で巻き返しを図るため、同社の直系販社や県別特約店と呼ぶ事務機ディーラー、同社開発チームらと「ワイガヤミーティング」という企画会議を実施。ここで出てきた「売る側」の声を参考に、イチから開発したのがこの新製品だ。
ここまでの経緯について宮崎博文・プロダクトマーケティング部部長は「結論として、当社既存機を低速化させた製品では、ニーズを満たさないことが分かった」と、コンパクト、コンビニエント(便利)、コストパフォーマンスの「三つのC」をコンセプトとした新製品を作り上げた。
同社によると、カラーA3MFPの毎分11~20枚の国内市場は、2009年で3万台強にのぼり、年平均成長率はプラス10%も伸びる成長分野という。しかも、中・小規模企業では、10社のうち3割しか「カラー化」できていないため、モノクロ機からのリプレース需要が見込め、低迷するプリンタ市場の有望株と判断した。
全国の販売展開を指揮する天野慎吾・国内マーケティンググループ1チームチーム長は「限られたスペースに置かれている旧式のモノクロ機を、省スペースの新製品で置き換えることを勧める。中・小規模市場にフィットした新製品でトレンドを変える」と、短期的に市場を拡大する目論見だ。
主な新機能は、上記以外にも、販社の声を反映して工夫がこらされている。単純に設置面積を縮小するには、長い開発期間と技術力が必要だが、これを短期間でクリアした。
例えば、手差しトレイと両面出力ユニットを薄型化し、省スペース化を図った。さらに、本体内部の冷却ファンの数を減らし、従来機では待機時に回転していたファンをすべて停止して省エネと超低騒音を実現した。

イチから開発した小型/省スペースの新型カラーA3複合機と、販社などに設置する巨大なPOP。人物写真は宮崎博文部長(左)と天野慎吾チーム長
通信系販社も新規取り込み 同社の従来機であるMFPと比較すると、フィニッシャーはサイドトレイの出っ張り方式を改め、本体出力部に取り付けられる「インナーフィニッシャー化」を図った。操作パネルは、上位機種のユーザーインタフェース(UI)と統一し、よく使う機能を大きな文字で表示できる「らくらくコピー・FAX画面」を採用したほか、スキャンデータをパソコンを介さず複合機本体にUSBメモリを差し込んで直接保存できるなど、操作を簡単にした。天野チーム長は「中・小規模の企業では、IT担当者が不在で操作に手間取ることが多い」とみており、ユーザーの実情に適した小型MFPが出来上がったと自信をみせる。
しかし、リコーとキヤノンの牙城は、そう簡単には崩せない。そこで、富士ゼロックスでは、これまでにないマーケティング戦略に打って出る。2010年3月までに同新製品を販売した販社に対し、インセンティブを割増しで提供し、早期需要を取り込むほか、直系販社や特約店のギャラリーにデモ用の実機や機能を説明する2m近くある筒型のPOPを配備するなど、「従来にないプロモーションを積極化し、既存チャネルを活性化させる」(天野チーム長)。さらには、地域で活躍するSIerや他社機を売る事務機ディーラー、通信系販社をターゲットに新規チャネルの獲得も行う計画だ。
富士ゼロックスには、一時分社化し再度吸収したシングルファンクション機を主に販売していた旧富士ゼロックスプリンティングシステムズ(FXPS)の部隊が存在している。この部隊とここで抱えている事務機ディーラーやSIerなどのチャネルとの兼ね合いが不透明だ。中・小規模のオフィスであれば、高速・高機能な同社のシングル機を導入するニーズも高いはず。一方がMFPだけ、他方でもシングル機だけを「売る」複雑な構図は、未だ整理がついていないようにみえる。
このあたりが解決すれば、富士ゼロックス全社が一丸となり、リコーとキヤノンに脅威を与えることができるだろう。